3.冒頭から落ち着いたカメラワークと美しいライティング、そしてクラシックな音楽と、過去の作品とはまったく雰囲気が違う。
これは重厚感のある作品だなと思いゆったりと観賞していると、ふつふつと水が沸騰してくるかのように底から何かが沸いてくる。
それは雪深い静的な景観と、温もりを感じさせない静謐な空間の中に揺らめく信義という名の炎。そのコントラストに醸成される緊張感なのではないかーーー。
あのCASSHERNから十年以上たった。映画批評家から辛辣な評価をされた過去作とは全く毛色の違う作品を世に出した紀里谷監督。
今作はそんな世間に向けて意地で撮った映画ではない。そんな幼稚じみた人に撮れる映画ではないのだ。十年もあれば人も状況も変化する。
自分のやりたい事を最大限に実現する為にやることはもちろん、映画に対する謙虚さがあるからこそ柔軟に作風を変えられるのだと思う。
しかし彼の作品には変わらないスピリットがある。
それは、生きることよりも大切なものがあるという信念だ。
死は敗北ではなく、敗北とは生きるために大切な何かを捨てることだと。
生きることが目的ではなく、生きて何をするのかが人生だと。
『Last Knights』はそんな美しい魂が描かれている作品だった。