1.《ネタバレ》 崩壊していく、家族の巣窟。
共産主義政権下、住居難にあえぐ当時のブダペスト。
狭いアパートで三世代が同居せざるを得ず、プライバシーも金銭的余裕もなく、
傲慢な舅にいびられ、追い詰められている嫁の"リアルな現在"を切り取っている。
夫が除隊となり、国から公営住宅が提供されると思ったら順番が回ってくる様子もなく、
舅とのストレスフルな関係から残業と称して家に帰らないことも増える。
そこから不倫しただろ、アバズレだの一方的に決め付け罵る舅は、
自分は苦労していると理想の父親像を謳いながら浮気しているクズっぷり。
夫もどちらの側に立っているのか曖昧で守ってくれず、
とうとう壊れてしまった嫁は娘を連れて出ていくも帰る場所もなく、
空き部屋を不法占拠せざるを得ない世知辛い現実が待っていた。
お役所体質で部屋はないと言い張っている職員は何のために存在している?
ここにあるのは息苦しさしかない社会で、強者が弱者を捌け口として蹂躙していく。
露骨な性暴力が共産主義を牛耳るソ連の暴力性とリンクしている。
当時、弱冠22歳で本作を撮り上げたタル・ベーラによるドキュメンタリータッチの台詞の応酬に、
後の作品群とは似ても似つかぬ作風だが、社会への疑念・怒りというテーマは初期から通底していた。
共産主義政権下のハンガリーでここまで反骨的なものを撮れたなと感嘆させられる。