1.いま世界で最も人間を厳しく描くことができているのはイラン映画でしょう。経済的にも言論的にも自由度は高くないはずなのに伝統文化と現代社会の問題を巧みに絡み合わせこれだけドラマチックな物語を作れるのは驚異的です。もっともそれはイランの外側から見た場合であって内側では意外と活発に映画産業と言論が育っていることが反映されているかもしれません。劇中でも子どもが映画館に行きたがる場面があり、それはある程度イランのポジティブな現状を反映していると思われます。台詞と音楽は最低限まで切り詰められ、絵画的で象徴的なショットが何度も挿入されます。しかし必ずしも難解な内容ではなく、死刑制度が死刑囚とその親族だけではなく死刑を実行した側の人間にも傷を与えていることを両者の視点から丁寧に描いています。