1.《ネタバレ》 ストローブ=ユイレはセザンヌの眼を持っている。風景を受信する感光板に徹すること。風景から湧き上がる匂い、風、色彩の蒸気を捉えること。彼らのカメラは虚心であろうと耐え忍ぶようにして固定される。風景に意味を持たせてはならない。意味とは制約である。風景の持つ無限に等しい情報を制限してはならない。そうして丹念に写し取られた風景に人物を配置させる。そのフレーミングはフォードやブレッソンの影響を感じさせるが、彼らのそれはさらに鋭く美しい。そして配置した人物に良質なテクストを朗読させる。本作においてはパヴェーゼの「レウコとの対話」と「月とかがり火」という二つの傑作である(映画鑑賞の前後に是非一読してほしい)。このようにして構築された映画が面白くないはずがない。ラストに流れるバッハの「音楽の捧げもの」からのトリオソナタ第三楽章というチョイスも素晴らしい。
しかし、彼らの創作理念に一つ大きな疑念がある。それは登場人物や物語を、高尚と低俗という二項対立の図式に当て嵌めてしまう傾向があるという芸術家としては致命的な問題のことだ。この映画の最後を飾る落日のショット。唯一感光板に徹することを放棄したショットに思えてしまうのだ。
とはいえ草木の放散する青々とした陰影を見事に捉えた映像美と、原作の言語世界に強靭なショット群によって形を与え、情報を与え、確固たる映像世界を築き上げた腕前は他に類を見ないものだ。ストローブ=ユイレの中でもトップクラスの出来映えである本作は紀伊国屋からDVDが出されている。傑作中篇「あの彼らの出会い」も同時収録だからお得だ!