18.《ネタバレ》 「ヒロインにはゲイの男友達がいる」というのはラブコメ映画のお約束ですが、本作はそんな「男友達」にスポットを当てて主人公として描いたという、とても珍しい映画。
前半は如何にも軽いノリのラブコメという作風であり、後半のシリアスな親権争いとのギャップが大きくて、その辺りが本作を「評価の分かれる映画」にしてしまった気がしますね。
主人公とヒロインだけでなく、血縁上の父親であるケヴィンまで乱入し、三つ巴の争いになった挙句に明確な結論を出さないまま終わってしまうというのは、とても褒められた事ではないと思います。
「完成度が低い映画」「作りが散漫な映画」という非難の声が上がるのも、至極もっともかと。
それでもなお、自分はこの映画が好きというか……もう本当に「良い映画じゃないか」って、しみじみ思えるくらいに感動しちゃったんですよね。
とにかく主人公が息子のサムを想う姿に胸を打たれて、裁判における「私は保護者なんかじゃない、父親だ」と主張する場面にも(その通りだ! 良く言った!)と拍手喝采したくなったくらい。
「本を読む時に逆さまにしたがる」「ローストビーストの日」などのキーワードを巧みに活用し、父子の絆を丁寧に描いている点も良かったです。
また、本作は今から二十年近く昔の映画なのですが、現在よりも同性愛者に対する風当たりが強かった時代である事が、分かり易く説明されている点なんかも良かったですね。
親権争いの際には「ゲイの父親の立場は弱い」と弁護士にもハッキリ言われちゃうし、葬式の際にも同性愛者は差別を受け、死者の望み通りの式にしてもらえないという場面なんかも、情感たっぷりに描いている。
そういった部分がキチンとしているからこそ、二十年後の今観ても、自然に映画の世界に入っていけたんじゃないかなって思えます。
主人公のロバートは男性的なマッチョマンなのですが、ヒロインの元カレを懲らしめる為、如何にも「オカマ」的な恰好をして彼の職場に押し掛け「彼とは男同士のカップルだった」と思わせ嫌がらせをするなど「同性愛への差別意識が今より強かった時代」だからこその際どいネタなんかもあり、そういう意味でも面白かったですね。
創作物においては、どうしても「差別は良くない」というメッセージだけに終始してしまいがちですが、本作においては「差別意識を逆手に取って復讐する」という場面が描かれている訳であり、凄く新鮮に感じられました。
悩める主人公に対し「子供を持つのは、世界一素敵な事」「だって私は、貴方を産んで本当に良かった」と言って応援してくれる母親の存在も良かったし、それまで不仲だった父親が、ロバートの為に裁判の資金援助を申し出る場面も、凄く感動的でしたね。
本作には「父子の絆に血縁なんて関係無い」という主張が込められている訳だけど、その一方で、実の親子であるロバートと両親の絆も忘れずに描いておくというのは、凄くバランスが良いというか、作中の主張が歪んだものではない、真っ当なものだと感じさせる説得力があったと思います。
自分としては大いにロバート側に感情移入しちゃった訳だけど、ヒロインであるアビーの気持ちも(まぁ、分からないではない……)と思わせてくれた辺りも、嬉しかったですね。
ロバートが「息子の父親」ではあっても「自分の夫」ではない事を悲しむ気持ちが分かり易く描かれており、彼女を一方的に悪役と断じる事も出来ないという形。
弁護士が裁判に勝つ為、何とか有利な材料を集めようと「彼女は性的に淫ら? 情緒不安定?」などと問い掛けた際に、馬鹿正直に「そんな事は無い」と否定しちゃうロバートの姿など、この二人が「良い人間」「良い友達」であった事を示す場面が随所に挟まれているのも、映画に深みを与える効果があったんじゃないかと。
上述の通り、本作は裁判の結果を明かさないまま、親権の行方も不確かなまま、尻切れトンボな結末を迎える事になります。
それでも、ラストシーンにて、嬉しそうにロバートに抱き付くサムの笑顔と「パパは一人でいい」という台詞を考えれば(サムの父親は、間違い無くロバートだ。彼は立派な父親だ)と、そう断言したい気持ちになるんですね。
色々と投げっぱなしのまま終わってしまった、不親切な映画ではあるけれど「サムの本当の父親は誰なのか?」という命題については、きちんと答えを出してみせた、真摯な映画であったと思います。