1.《ネタバレ》 東京国際映画祭で最も観たかった作品ながら、都合が付かず泣く泣く鑑賞を断念。
なので、思いの外早く正式劇場公開となった事に先ず感謝。
全体的には期待に違わぬ良作、よくぞこれだけの濃密な「絵」をたった一人で3年も掛けて作成したと思う。
登場人物は全く喋らない。
そもそも人間は一人しか登場せず、相手は動物ばかりなので喋る必要が無い。
何も人間に喋らせない事が逆に観る側の想像力を掻き立てる事になり、これは上手い演出だと思う。
想像するに、これ即ち作成途中のジルバロディス監督の心情・状況を反映しているのでは無かろうか。
物語も至ってシンプル。
原因は不明ながら事故を起こした飛行機から独りパラシュートで生き残り、
何処かの島にたどり着いた主人公が得体の知れない「何か」の追跡を受けながらオートバイで島をツーリングし、
人間が住んでいるであろう街に向かう...と言うお話。
シンプル極まりない構成だが、ジルバロディス監督渾身の「絵」の力、そして秀逸な音楽の効果も有り飽きる事は無い。
道中で主人公は様々な自然の中を疾走るのだが、その全てがとにかく気持ちの良い風景・描写なのだ。
広告宣伝でも使用されている鏡面の様な湖を疾走る場面、これは本当に素晴らしかった。
バイクでツーリングしてる時に気持ちの良い風景の中を走る行為は、実際にそれを体験した事のある人しか判らない感覚を得られるのだが、
それに近い物を感じられた。恐らくジルバロディス監督は自身でもオートバイで旅に出た経験が有るのではないだろうか。
満点では無い理由の一つは恐らくシングルエンジンであろうオートバイのアイドリング音がハーレー(二気筒)のそれだった事と、
得体の知れない「何か」が一体何だったのかが最後まで判らなかった事。
あんな恐ろしいのがうろついていたら、街に住む人たちは気が気じゃないだろうし・・・
詳細な説明を求める作品では無いのだけれど、そこが気になってしまった。
本作は2020年の劇場鑑賞最後の作品。
コロナの影響でとんでもない一年になってしまったけれど、最後の劇場鑑賞を本作で締められてよかったと思う。