66.《ネタバレ》 山田監督の単語タイトルシリーズとも言えるもので、それらの作品はテーマに対してかなりストレートな内容になっています。
台詞や脚本も殆ど捻ったりせずにベタとも取れる言い回しや展開になっています。
その為に演じる役者さんの技量が低いと見ている側が恥ずかしくなってしまいます。
オムニバスのような各生徒達の回想シーンを絡ませた前半部で所々集中出来なかったのはそのような理由だと思います。
特に萩原さんの演技には困ってしまいました。
ミュージシャンが本業である大江千里さんのお医者さん役の方が安心して見ていられたのは何とも皮肉な事です。
後半のイノさんのエピソードになるとグッと作品に引き込まれます。
田中邦衛さんはやはり尋常では有りません。
本作での田中さんは何処という事ではなく全てのシーンで際立っていたと思います。
役柄にハマっていたという事も有りますが、作品を壊さずに自分を余すことなく主張できる数少ない役者さんだと思います。
少し大袈裟な所作と、大きく息を吸ってから口を窄めて喋る台詞とで独特のリズムを作って見せる演技は彼の風貌と相俟って唯一無二ですが、不思議と周りと協調できてしまいます。
単に自分の演技の事だけを考えて全面に出しているのではなく周りを見ながら微妙な所でバランスを取っているのだと思います。
オモニの焼肉屋での黒井先生とイノさんのやり取りはやるせない程切なくなってしまいました。
社会の中の大人として相手に常識的対応を求める黒井先生と、人として男としての感情を相手にぶつけるイノさん、それぞれの立場からすれば双方共それ程間違っていないと思います。
同情や哀れみを示しながら「同じ人間として」と言う無神経とも取れる黒井先生にイノさんが怒ってしまいますが彼の乱暴な行動によってイノさんがお店からつまみ出されてしまいます。
教養の有る者が教養の無い行動を取った者を無慈悲に社会から排除しているようにも映ります。
社会は教養の有る者によって作られていますし秩序を保つには当然の振る舞いですが、お店を出されるイノさんが黒井先生に言った最後の言葉は生きる事に不器用な者達の心の叫びにも聞こえました。
作中では幸福を理解する為に勉強すると言っていますが、勉強をする為の学校で逆に不幸になってしまう生徒がいる現状ではこの様な例外的な夜間中学校や他の受け皿の存在意義は大きいのではないかと感じました。