1.海辺の情景。それを窓辺で見つめる女性のシルエットが、屋内側から捉えられる。
映画は、部屋の奥側から明るい窓際あるいは縁側に向けたローポジションの構図が主体。
屋外背景のキーライトに対して、暗すぎず・明るすぎずの控え目な補助光によって、人物の表情や部屋の内装も逆光に潰れることなく、落ち着いたコントラストを作り出している。
そして障子や襖や丸窓のフレーム内フレームが、憧憬としての外の世界を対比的に切り取ってみせる。
一方で、随所に挿入されるイサム・ノグチらしき彫刻家(勅使河原三郎)の作業光景のショットでは、強い直射光によるハイコントラストが彼の顔半分を真白く浮かび上がらせ力強く印象的なイメージを形づくる。
いずれも黒澤組の照明・美術スタッフの技の冴えである。
CGの濫用は控え、実景主体で再現した20世紀初頭の風俗も非常に丁寧な仕事だ。
エミリー・モーティマー・中村獅童の主演二人のみならず、出番は少ないながら大地康雄・山野海ら脇役陣の芝居も充実している。
前半では時制の無駄な倒置などが冗長さを感じさせる一方、後半での親子関係の描き込みに不足が感じられてしまうのが難点か。