1.『カサブランカ』や『嘆きの天使』などは少々サービス過剰かとも思う。
米国マーケット他をかなり意識したのか、どうか。
濃霧の中、抱き合うイレーヌ・ジャコブとウィレム・デフォーの周囲を
旋回しかけるデ・パルマまがいのカメラなどには冷や冷やしてしまいそうになる。
被写体サイズの大きさも有名俳優起用によるものだろうが、
そうした大御所俳優らを配しながらも曇天への妥協の無さは一貫している。
ブルーノ・ガンツの乗った船が橋梁をくぐると、彼に影が落ちスッとシルエット可する
ショット。その黒と彼を包む曇天の鈍い白が異様な迫力で迫ってくる。
夜の国境検問所、暗闇とそこに浮かびあがる人物に当たる照明の加減も素晴らしい。
シベリヤの工場群の吐きだす白煙、ジグザグ階段の造形などもアンゲロプロス
ならではの壮観であり、ロングテイク内での転調(パイプオルガンの演奏、
警官隊の突入など)も驚きこそないが、楽しめる。