37.《ネタバレ》 私が当作品を知ったのは中学生のとき。スターウォーズ(1977年)を発端に出版されたSF雑誌に、日本未公開作品として紹介されていました。私は「このような独特の絵が動くのを観てみたい。日本のアニメのように、セル画に起こして原画とは違う質感になるのかな?でも、一般受けしそうな絵じゃないから日本公開は無理か…」と思いました。その雑誌にはアニメートに関する技術は解説されていなかったのです。
あれから約40年…皆さんのレビューの拝読を機に、とっくに日本でもTV放送され、DVDも販売…と知りました。レンタル店に行ったら、あっけなく見つかり、早速、鑑賞。
さて結果は…目に焼き付いていた独創的な絵が、質感そのままに動くことに感激しました。他のレビュアーさん達が解説して下さっていますが、切り絵による表現だそうで…おそらく、当時の日本で製作しようにも「こんな手間暇のかかる技術では、採算がとれない」とボツになったことでしょう。否、絵柄自体でボツですね、きっと…。
しかも10分程度の実験映像ではなく、長編劇映画として完成できたことは、お国柄が違うとはいえ、ルネ・ラルー監督にとって作家冥利に尽きるのでは…とも思いました。また、作家性が強い作品の場合、ストーリーが難解のものがありますが、当作品はストーリー(あらすじ)がわかりやすいぶん、私は映像のイマジネーションの世界に浸れました。
そもそも当作品の独自性は、文字情報でも表現可能な【ストーリー性】よりも【絵柄=映像/音=BGMや効果音】によるところが大きく、まさに映像作品ならではと思われます。原作は未読ですが、もしドラーグ人を始めとする惑星イガムの様相が【原作通り=文字情報が基】だとしても、それを視覚化し得たことは、やはり価値があると言えるのではないでしょうか。
敢えてストーリーの物足りなさに言及するなら…テールを育てたティバの存在が、テールが家から逃げた後、それっきりになったことです。リメイクしたら、ラストで再登場するなど締め括りに重要な役割を担いそうですが…リメイクはしないですね、きっと…
なお、他のレビュアーさん達から「気持ち悪い」といった感想が多く寄せられていますが…実のところ、ルネ・ラルー監督ら作り手の皆さんも、観客の皆さんが「気持ち悪い」と感じるよう、めざしていたように思えます。
それを示唆していると感じたのは、映画の開始後、約13分頃に登場する【シン知事ら4名の瞑想の場面】です。知事達の身体が歪んでいく様子を目撃した主人公・テールは、口元を押さえ、あたかも“オエッ”と嫌悪感を露わにしている印象を受けました。このことから「作り手の皆さんは意図的に、気持ち悪い場面にしようと考えて表現したのでは…」と私も思ったわけです。他の場面についても、大なり小なり、同様だったのでは…と推察します。
ひょっとすると「私たち地球人が気持ち悪いと感じるものこそ、ドラーグ人やイガムに住む人間達は美しいと感じるはず…と想像しながらデザインしました」といった趣旨のインタビュー記事が、どこかにありそうな気もします。仮に「テールが、シン知事たちの瞑想を“オエッ”と気持ち悪がっている場面がありますけど…」と突っ込んでも「あのときのテールはまだ幼く、初めてのものを見て驚いただけ」と言われちゃいそうです。いや、ちょっと考え過ぎ?…
それにしても、私にとって当作品は【記憶の片隅にあった、遠い異国の幻の映画】でした。上述の通りレンタル店であっけなくDVDを発見したときは「当作品の情報から隔絶されていた自分の生活環境って何なんだ?陸の孤島か?」と思いましたが…思春期のときに観たらドキドキしそうなアダルトな絵も多かったので、“歳を重ねた現在”での鑑賞で、ちょうど良かったかもしれません。
いずれにせよ、当サイトが無ければ、私は、一生、観ず仕舞いだったことでしょう。ありがとう、シネマレビュー!
さて、採点ですが…いつもなら「万人受けしない点を差し引き…」としますが、他のレビュアーさんもおっしゃっている通り【唯一無二の作品】だと思いますし、少年時代の夢が叶ったという思い入れも加味し、大甘かもしれませんが、10点とさせていただきます。
~備考~
余計なお節介かもしれませんが、当作品をご覧になるか検討している方々へ。もし可能なら、事前にDVDなどのパッケージやインターネットに掲載されている絵(静止画像)をご覧いただき「この絵が動くなんて、想像しただけで気持ち悪い」と感じた方は、観ないほうがいいのでは…と思います。せっかく観てもトラウマになるのでは、心身の健康に良くないと思いますので…もっとも「気持ち悪い」と思っても、つい観たくなるのが当作品の特徴(魅力?)なら、それまでですが…