16.《ネタバレ》 青森のマグロの物語かと思いきや、これもやっぱり生死をめぐる北海道の物語じゃないかと思ってしまう。「雪の断章」や「風花」もそうでしたが、相米慎二の描く北海道には不気味な風の音がして、死の匂いが漂い、その死のすぐそばには自暴自棄なセックスがあります。緒形拳は、ちょうど「雪の断章」の世良公則と同じにように、罪を背負って北海道へ死に場所を探しに来たよう見えるし、岸壁から船に飛び移る十朱幸代は、テトラポットへ飛び移る斉藤由貴にそっくりなのです。 はたして佐藤浩市は、青森沖で死んだのか北海道沖で死んだのか分からないけれど、彼が死ぬ前に口ずさんでいた都はるみの歌は、青森から北海道へ向かう連絡船の曲だったし、それは自暴自棄なセックスをする前に夏目雅子が口ずさんでいた曲でもある。 かりに「雪の断章」では罪を背負った人間が死に、「あ、春」では年老いた人間が死んだと考えるのなら、本作で死ぬべきなのは緒形拳であるはずなのだけど、なぜか通常の物語のセオリーとは順序が逆で、ここでは未熟さゆえに佐藤浩市が死ぬ結末になってます。これは残酷なリアリズムともいえるし、たとえば「あ、春」でヒヨコが孵化したり、「風花」でカエルが冬眠から目覚めたように、佐藤浩市の死と引き換えに夏目雅子が出産するともいえるけど、これを「死と再生の物語」と解釈するにはあまりにも無惨すぎる。 ちなみに「風花」の大友良英の音楽も、ちょっとうるさいと思うところがありましたが、この映画の三枝成章の安いサスペンスドラマみたいな音楽も全般的に邪魔でした。それこそ都はるみの音源を使ったほうがマシじゃないのかなと感じます。 なお、瀕死の佐藤浩市を放置してマグロを釣り上げる行為は救護義務を怠った法令違反じゃないかと思うのだけど、刑事役の寺田農が緒形拳を取り調べる場面がカットされたというのは、その後に入る予定のシーンだったのでしょうか。 【まいか】さん [インターネット(邦画)] 7点(2024-04-07 03:23:22) |
15.《ネタバレ》 評価が高い相米慎二監督の代表作と思って期待したが、今一でした。 まず、方言が聞き取りにくい、半分ぐらい何言ってるのかわからない。 冒頭、佐藤浩一が船で大怪我をするが、その後も漁師をする心情がわからない。喫茶店で夫婦幸せに暮らせるだろうに? マグロ漁のシーンは確かに迫力はあったが、二人の女優の濡れ場も唐突で、終始内容が退屈のまま終了した。 自分には合わない映画でした。 【とれびやん】さん [インターネット(邦画)] 5点(2021-09-12 16:56:30) |
14.《ネタバレ》 緒形拳の熱演が凄し。 対する若き佐藤浩市の情けなさよ。 男女の織りなす漁り火。 だが十朱幸代のラブシーンは不要。 演歌が流れる屋台。 焼酎を一気飲み。 大間の風情を伝える演出が出色の出来。 【にじばぶ】さん [インターネット(邦画)] 6点(2020-10-12 19:40:39) |
13.《ネタバレ》 死んだら元も子もないで・・・。 【ケンジ】さん [ブルーレイ(邦画)] 7点(2016-02-16 20:46:20) |
12.こちらの心が不純なせいか、長回しのシーンはつい撮影風景を想像してしまっていけない。クレーン移動は心地よいけど。拳と十朱の再会シーンと追っかけとか。父と婿の、というより先輩と後輩の和解シーンはちょっとホロッとした。たとえ本人が死んでも本人がやっと釣ったマグロを捨てるわけにはいかん、このことで初めて漁師仲間に入れてもらえた、ということで、忠臣蔵の勘平みたいなものか。この仲間に入れてもらえぬ焦りが重要なモチーフであった。この閉鎖性は否定されるべきものだが、漁師の側からすれば「あんまりいい仕事じゃないよ、娘に苦労はさせたくない」という気持ちもあり、しかしマグロ獲りの誇りも強く、娘の亭主は漁師でなければならぬ、と思うわけ。そういうあれこれがあるので、ラストの「マグロ一匹百万円か、いい仕事だべなあ」のセリフが生きてくる。最初のマグロ釣りのシーンが一番の迫力だった。 【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2012-11-09 09:57:31) |
11.すごい骨太な映画だ。観客に方言がわかろうがわかるまいが方言で貫き通す。正直言葉は半分もわからなかったが、それでも気持ちはびんびん伝わってくる。それにマグロを釣り上げるシーンを初め全編に及ぶ長回し、観客が見ようが見まいが俺は俺の映画を撮るんだという監督の思いも伝わってくる。演ずる役者は皆漁師や漁師の妻や娘などになりきってしまって、もはや演技を超えている。それほど芯の通った容赦のない映画である。 映画がどうこうでなく、震えてしまったという記憶しかなく、夏目雅子を見たいという軽い気持ちで見た私は圧倒されてしまった。まぐろの大きさも私が思ってた以上にでかかった。 初め見たときは忘れてしまっていたが、笑点の圓楽師匠が出ていたことをDVDで発見。 【ESPERANZA】さん [映画館(邦画)] 8点(2011-12-01 23:24:24) |
10.緒形拳を見る映画。頑固親父の漁師役を体当たり演技で、なりきり度がすごい。 映像は全体的にやや暗め。この頃の邦画は、みんなこんな感じだったかな。 まだ若いながらも、佐藤浩市の演技もいい。夏目雅子のキンキン声が多少辛かったのと、 ストーリー上では、十朱幸代の役柄があまり意味をなしてなかったのが残念。 とにもかくにも、改めて緒形拳の役者魂を見せつけられた作品だった。 【MAHITO】さん [DVD(邦画)] 6点(2011-08-19 06:39:59) |
9.相米さん得意の長回しの「嘘」のつけない演出。それに応える緒方拳のマグロ釣りの俳優としての凄まじさ。別に普通の映画の演出でも創れるが、ここはそういう演出が骨太な脚本に風格を与える。それに加えて、夏目雅子の清純な存在。文句ない映画です。さらに自分が味があると思ったのが、よその漁港の課長役のレオナルド熊の存在感。荒っぽい漁師の気質がうまくにじみでる配役だったと思います。皆、もう他界されましたが。今は感じる事のできない昭和の空気が懐かしかったです。 【トント】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2011-08-09 22:38:20) |
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8.《ネタバレ》 相米慎二監督といえば「セーラー服と機関銃」のようなアイドル映画や「お引越し」のような子供の成長を描いた映画の印象が強いけれどもこれはもう完全に大人の映画で、緒形拳演じる主人公の漁師としての生き様とそんな彼に漁師の弟子入りを志願する佐藤浩市扮する青年とのドラマが非常に見ごたえがあり、二人がマグロ釣りに出かけて行き、誤って釣り糸が佐藤浩市の顔に巻きつくシーンの壮絶さ。それでいながらマグロを諦めようとしない緒形拳の執念も物凄い。昔「私の青空」という田畑智子(「お引越し」のレンコ)主演のNHK朝のドラマでも取り上げられていたが、ここまで壮絶なものとは。それが相米監督お得意の長まわしによってこれでもかこれでもかとリアルに描かれていて漁師という仕事の壮絶さを思い知らされたような気がする。そんな緒形拳を「人間よりもマグロの方が大事なのか。」と責める夏目雅子扮する娘。この映画は緒形拳と佐藤浩市の男と男のドラマでありながら、この夏目雅子の存在も大きく、海に出て行った緒形拳や佐藤浩市の帰りを待ち続ける姿や、さきほど書いた佐藤浩市が死に掛けてるのにほっといてマグロを釣っていた緒形拳に対して非難を浴びせかけるシーンなどこのトキ子という女性の内面的な部分もよく描かれており、この部分のドラマも非常に見ごたえがあるものになっている。もちろん演じる夏目雅子も見事で、既に青観さんが書かれているようにこの女優でなければ出せない味というのか、そういうものがあるからこそ、ドラマに深みが加わっているのだと思う。ラストの彼女の海に向かってのやり場のない絶叫は思わず見ているこちらも悲しくなってしまった。そして、改めて、夏目雅子という名女優の若すぎる死を惜しく思うし、生きていたら今頃どんな女優になっていただろうと思う。27年間の生涯、そしてわずか10年間にも満たない女優人生。その中でもこの映画は「時代屋の女房」と並んで彼女の映画での代表作と言えるのではないかと思う。坂道を自転車に乗って明るく颯爽と走っている姿も印象的だった。そして緒形拳や相米監督にとっても間違いなく代表作の一つだと思うし、相米監督も53歳という若すぎる死が惜しまれる。それに緒形拳だってもう亡くなってしまっているのは非常に残念。この三人にはもっと長く生きていてもらいたかった。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 8点(2010-10-13 01:45:34) (良:1票) |
7.脚本は「セーラー服と機関銃」に引き続き田中陽造だけれども、相米監督もこのあたりで、ただの「ガキ映画」の監督ではないことをみせたかったんじゃないか、などと思う。力のこもった文芸大作、といえるのかもしれないけれども、相米監督のほかの作品にある、わけのわからない異様な高揚感は感じられない。背景音の入ってきかたが、この作品では作為的に感じられるシーンが多い。徹底したワンシーン・ワンカットだけれども、それが効果的なシーンもあり、そうでもなく感じられるシーンもある。主人公の緒形拳が北海道へ行くシークエンスが、いかにも田中陽造の脚本らしくていいけれど、それでもリアリズムが基調のこの作品の中では異質な感じ。 【keiji】さん [DVD(邦画)] 7点(2010-05-29 11:35:12) |
6.《ネタバレ》 この映画を一言で表すなら「壮絶」て言葉で表したい。緒形拳と佐藤浩市の二人の男のもたらす一騎打ち、漁師としてのプライドをかけた男とそんな男を慕う男の闘い、愛する女の為になら頭を下げ、どんなことにも耐え、少しぐらいのピンタも耐えて見せる男、そして、二人の男に関係する女、父親への愛と愛する青年への愛、待つ女を見事に演じて見せてる夏目雅子の存在があればこその作品になっていると言っても過言ではないぐらい夏目雅子という一人の本物の映画女優の存在が大きい。緒形拳と佐藤浩市が船に乗ってマグロを釣りに行く。あの釣り糸が間違って佐藤浩市の顔へと行く場面の凄まじいことといったらないぐらい漁師という職業の厳しさ、辛さが物凄くリアリティーを持って伝わってくる。半端じゃないぐらいの映像的な力強さ、それはオープニングのあの長回しからしてこの監督らしい力強いショットとして現れている。夏目雅子が自転車に乗って坂道を下ってくるシーンにおいても映画的な力を感じることが出来る。夏目雅子というこの女優の持っている魅力、男に対する態度、待つ姿、そして、やはりあの日傘、夏目雅子に日傘、森崎東監督の「時代屋の女房」の中でも日傘姿の彼女が映し出されるが日傘がこれほど似合う女優は果たして他にいるだろうか?ただ見た目が可愛いだけでない、きちんとした演技力を持っているこの女優の若くしての死は本当に不幸である。映画史において各年代事に必ずその時代を映し出す本物の女優がかつての日本映画にはいた。少なくともこの映画が撮られた1980年代において最も女優らしい、それでいて、誰でも親しみの沸くことの出来る女優は夏目雅子で決まりである。この映画は男と男の格闘であると共に女も女で男達と共に何かに向って戦いを求めているような感じがしてならない。いずれにせよ、夏目雅子がいる。彼女がいるといないではここまでの作品になったであろうか?僅か27年という短い人生においてまた短かった映画人生において夏目雅子の代表作であると共にこれもまた若くして亡くなった相米慎二監督の代表作の一つであると思います。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-09-06 14:29:25) (良:2票) |
★5.《ネタバレ》 この美しいタイトルからして期待してたんですが・・・。まず、夏目雅子がまったく似合わない天真爛漫元気娘路線の演技を強要されているのにがっかり。あの娘は、ひっそりと、凜と、楚々とした役に設定してこそ、海の男たちも引き立つというものでしょう。また、3つのパートがほとんど相互に影響していないのも、よく分かりませんでした(十朱幸代の役はこの話の中でどういう意味があるんでしょうか)。どきっとしたのは、佐藤浩市の負傷をいったん認識していながら、まるっきりそれを忘れてマグロの釣り上げに集中する緒形拳のシーン。漁師の凄みと気合を大いに感じさせてくれましたし、ここだけは長回しが成功していました。 【Olias】さん [DVD(邦画)] 5点(2007-07-29 03:20:32) |
4.相米監督のワンシーンワンカットの長回しが映画にもたらすもの、それは物語の中の一コマにみなぎる生々しさであり緊張であり美しさである。足跡の無い砂浜に足跡を残してゆく長回しの美しさ。佐藤浩市が緒形拳に会いに行き殴られる長回しのそれぞれの思いが交錯する生々しさ。マグロを釣る長回しの緊張と恐怖。宿の二階から外の女を追い走り出る引いた位置からの長回しの、ドラマティックを拒否するような冷めた目線の奇妙さ。それでも物語の分岐点で雨を降らせる相米印。他の相米作品と作風は違えど、どこもかしこも相米慎二の映画でした。 【R&A】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2007-02-16 17:26:58) |
3.『板一枚の下は地獄』『一攫千金』を実感させられる作品。命がけの博打うちの様な一匹狼の漁師を演じる緒形拳は圧巻。 |
2.いやマジで凄いって!何がってアータ、あのマグロの一本釣りのシーン!だって緒方拳、ホントにマグロ釣ってるよ?人間よりもデカいのよ、マグロ!それが海中でユラ~リとしてる所の迫力といったら・・・。それを、相米監督お得意の長回しでジワーっと撮ってるんだから、もぉ・・・さすがに「血が沸騰する」って言ったらJAROに怒られちゃうけど、体感温度は2,3度上がった、マジで。あれ、どうやって撮ったんだろ?多分途中までは本物の漁師さんがやってたんだろうけど・・・。勿論それだけでなく、ドラマ自体も見応えがありました。いまさらだけど、緒方拳って味のある役者だなー。夏目雅子も凄く可愛らしいのにちゃんと演技できてるし。ホント、見た目だけで演技力ゼロの女優に彼女のDNAを注入したい。 【ぐるぐる】さん 8点(2003-12-06 15:14:46) (良:2票) |
1.《ネタバレ》 相米慎二って監督は「翔んだカップル」や「セーラー服と機関銃」のせいでアイドル・プログラムピクチャー御用達職人みたいな歪んだ先入観が個人的にあった。なもんで、本作も全く期待せずに観たのが吉と出た形に。イヤ凄まじいマグロ釣りの場面の迫力!殊に佐藤浩市扮する俊一が誤って釣り糸を顔面に絡めるシーンは下手なスプラッタも真っ青で壮絶の一語。緒形拳の男性フェロモン全開の演技も圧巻。彼の娘を演じた夏目雅子も夭逝が惜しまれる好演だった。マァ吉村昭の原作に負う所大とは言え、80年代邦画の中でも有数の力作なのは間違いない。イイ原作・脚本に恵まれさえすれば、こういう風に役者の持ち味を増幅させる力がある監督なのかと認識を改めた意味も込めて8点進呈。 【へちょちょ】さん 8点(2003-11-16 00:43:01) (良:1票) |