2.邦画特有の安っぽい感動の押し付け演出や、芸能界事情を優先したリアリティに欠けるキャスティング、どう考えても作品カラーに合わないタイアップ曲などネガティブな要素が絡むのではないかと危惧していたのだが、その殆どは杞憂だった。
劇中唯一架空の人物である竹内結子演じる水沢恵、秀才だがオタク風味で地味なキャラクターを竹内が非常に上手く演じていて、俳優としての懐の深さを感じさせる。そして狂言回しとなることで、専門的で難解になりがちな部分をうまく補っている。
主要キャストは映画テレビでお馴染みの俳優がしっかり押さえているが、他のスタッフは本当にJAXAから引っ張ってきたのではないかと思える程俳優らしくない、素朴で地味なキャスティングでこのあたりのバランス感覚は素晴らしい。
彼らの誰かが特別なヒーローというわけでもなく、とりわけ目立った活躍をするでもなく、宇宙が好きで、縁あって集まった極々普通(といっても秀才揃いなのだろうが)の人々がああでもない、こうでもないと悩み格闘しながら地味な作業の積み重ねで偉業を成し遂げていく様は、何か日本人的だなと感じさせるし、組織で働いたことのある人ならどこかしら自分に重ねてみたり感情移入が出来るのではないだろうか。
特筆しておきたいのは宇宙空間のシーンを一切「無音」で通したことだ。
宇宙空間では爆音も破裂音もエンジン音も、音波としては伝わらない。宇宙遊泳した飛行士が証言するように、自分の呼吸音と通信の音以外全くの静寂なのだという。
とは言ってもそれはそれ。映画では演出上何かしらのSEを加える作品が殆どだ。
ただこの作品で「グオー」「ギューン」などというSEをつけられたら興ざめだった。
自分の知る限り宇宙空間のシーンを無音で通したのは「2001年宇宙の旅」と本作だけだ。
さらにこの無音はやぶさが大気圏突入する際にはじめて空気を切り裂く音を発するところで、長い旅の静寂との対比が大きなインパクトとなって伝わる。
全体に演出は抑制的であるが地味に陥りすぎないように気を配られており、実質的主人公水沢恵の成長物語としての軸もしっかり通っている。
唯一残念だったのは音楽が凡庸で多少押しつけがましかったこと。邦画ではよくあることだが・・・。