★23.《ネタバレ》 作品全編にわたって用いられている曲はお馴染みの、ラフマニノフ作曲ピアノ協奏曲第2番。映画製作当時としても「古典的名曲」ってことになるのでしょうが、ラフマニノフという人は1943年に世を去っているので、この映画の2年前まで存命だったんですね。ロシア革命をきっかけにアメリカへ亡命してからは作曲よりも演奏家としての活動が中心となったため、作品の多くが亡命以前のものとなっており、この曲もそういう曲の1つ、であります(余談を続けると『ある日どこかで』で引用されるパガニーニ・ラプソディは後期の作品。なのであの映画の物語が成立する)。 有名な既存曲を映画の劇伴として使うのは、ピタリとハマれば絶大な効果をあげたりもするけれど、変に気になってしまい、気を削がれる場合もあるし、映像と完全には合わずに違和感を残してしまう場合もあって。この『逢びき』の場合はどうかというと、うーむ、これは違和感の方かもしれん(笑)。だけど、この音楽も含めて「古典的名画」ってことになるんですかね、もはやこれが違和感なのかどうか自分でもよくわかりませんが、少なくとも、今さらこれを別の曲に差し替えられたりしたら、その方が確実に違和感デカそう。 さてこの作品、中年男女の不倫のオハナシです。それを女性の側から描いています。夫は自分に無関心っぽいけれど悪い人では無さそうだし、ちょっとした日常のトラブルを「これは他の男性に心を動した自分への罰だ」と自らを戒めもするけれど・・・結局はこの、忘れかけていたときめく心には、抗しきれない。 それを描くにあたり、この作品では、主人公の女性の独白を映画に重ね続ける方法をとっています。これがはたして正解だったかどうか。独白は、時に彼女の表情や仕草を裏打ちし、時には内面と外面との乖離を浮き彫りにしたりもして、一定の効果をあげているのですが、その一方で、「独白に頼らずに映像でこれらを表現し切ったならば、どんな映画になったんだろうか」とも思ってしまいます。この作品の弱さがあるとすれば、そこなんじゃなかろうか。ただし、90分に満たないこの作品の緊密さは、一つには独白があってこそ成り立っているのであって、またこの緊密さがあってこそ、最後に物語の輪が閉じるようなこの作品の構成も、成立しているのだけど。
正直言うと、この医師は品行方正なフリをしてホントはとんでもないスケベ親父に違いない、とも思うし、別れの場面はオバチャン乱入でブチ壊しにされ、ザマーミロとも思うのですが、そういう心の汚れた私のような人間でも、やっぱり心のどこかで、切なさを感じたりもする訳で、珠玉の一本、と申せましょう。
ここでまたまた余談になるのですが、この別れの場面の、中途半端に投げ出される切なさ、みたいなものは、私に、オペレッタの作曲家レハールのエピソードを思い起こさせます。通俗作曲家のイメージがある彼も、無名時代の若い頃には芸術家を目指しており、かのマーラーへ手紙を出したりもしたが、返事は来ない。軍楽隊に所属していた当時の彼が、ある日その制服のまま汽車に乗ると、何と偶然にも、そこには憧れのマーラーが。軍楽隊を敵視しているという噂の彼からの冷たい視線を感じつつも、どうしても話しかけたいレハールは心の中で逡巡を続け、ついに意を決して口を開きかけたその時、列車は目的地に到着し、結局、会話することなくレハールは立ち去る・・・後に「あの時、話しかけなくてよかったんだろう」と回想する彼に対しては、この『逢びき』と同じくらい、乙女心を感じてしまうんですけどね。乙女心ってのはきっと、乙女以外の人が持つものなんでしょうね。 【鱗歌】さん [インターネット(字幕)] 8点(2024-12-22 10:46:17) ★《新規》★ |
22.《ネタバレ》 これはある意味、理想形の終わらせ方。 お互いの気持ちを伝え合い、二人の時間を楽しみ、深い関係になる前にさようなら。 お互いの家庭は崩壊する事なく、元の生活に戻る事が出来る。 でも心には思い出が残り、余韻を残す。 もちろん、その思い出は辛さも併せもってはいるが、お互い破滅の道を進むよりは良いだろう。 実際、ここまで二人きりで過ごし、お互いの愛する気持ちを伝え合っていたら、深い関係になる事の方が多いのではないか。 そう考えると、理想的な別れ方だと感じる。 【にじばぶ】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-09-13 10:51:10) (良:1票) |
21.共に既に家庭を持っている男と女のロマンス。平たく言えば不倫モノということになるのですが、 そういう言葉で片付けたくはない雰囲気と内容、そして品を持った作品です。 本作の主演女優、セリア・ジョンソン。その表情の演技が特に印象的です。 巨匠リーンの繊細な演出と、彼女の繊細な演技が見事に重なり合う。 相手役のトレヴァー・ハワードと共に美男美女が極上の絵になるロマンスという訳ではなく、 2人が互いを求めあう感情を露わにする激しさのあるシーンがある訳でもない。 毎週木曜日の買い物に出かける午後のほんの半日の2人の心の機微を実に丁寧に拾い上げていく。 それが本当にいい映画です。 巨匠リーンの初期の90分に満たない小品ですが、リーンの後の大作にひけを取らない作品だと思います。 【とらや】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2020-09-03 15:16:11) (良:1票) |
20.《ネタバレ》 噂に違わぬ大傑作。 改めてデヴィッドリーンの凄さを実感した。 古さを全く感じない秀逸な演出、演技。 やっと現実に帰ってくる主人公に、旦那が欠ける言葉が秀逸。 ファンタジーかもしれないが、これには思わず涙腺が崩壊してしまう。。 【kosuke】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2016-01-20 01:42:34) |
19.《ネタバレ》 おそらく、誰の記憶においても“初恋”というのは特別に綺麗で汚れの無い思い出なんじゃないだろうか。それって(多数の人にとって)プラトニックなまま終わったから、だと思うんだよね。で、大人になるとプラトニックに恋する、ということは実に稀なことになってくる。そして美しさを失う。 しかしこの映画、奇跡的な大人の“心のみ”の繋がりを描いて成功しちゃっている。大人になってからかかる はしかは重篤だというけれども。この二人の苦しみもそれは大きいもの。社会性やら家庭やら、色んなプレッシャーに耐えつつ、ティーンエイジャーのように恋をする二人は大変清らかでありました。 “クレアモント・ホテル”の主人公ミセス・パルフリーのおすすめだったこの映画。彼女同様に、品のある佇まいです。 【tottoko】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2015-07-29 00:33:23) |
18.《ネタバレ》 不倫と言えばれっきとした不倫なのだが、とても心の残るラブストーリーだ。全編を通じて流れるラフマニノフのピアノコンチェルト、第1楽章から第3楽章までのいろいろなメロディーを駆使して演奏される。軽く言えばBGMなのだが、それが劇中の人物の心理を巧みに描写していてまさに劇音楽。それでも途中までは6点か7点かと迷う段階だったが、終盤にきて9点か10点かを迷うくらいまでにヒートアップ。功労者は何とおしゃべりのドリー夫人だった。残酷なまでに切なく、そして通常の生活に戻る。不倫恋愛もので、これほど丁寧な作りで、胸をえぐる映画を私は他に知らない。 【ESPERANZA】さん [DVD(字幕)] 9点(2013-01-10 22:38:52) (良:1票) |
17.《ネタバレ》 最初の場面の「意味」を丁寧な描写で最終的に魅せる 本作品はそんな展開の元祖かな? 今となっては単なる不倫モノなのかも知れないが、制作年や時代背景を考慮すれば、ある意味この先見性は評価できるかと そこまで美男美女(スミマセン)でないところもリアリティさを醸し出している訳で よくよく考えれば本作品のスゴサがジワジワと伝わってきますね ある一つの愛のかたち 監督の描きたかったモノ 今考えているところでゴザイマス 【Kaname】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2012-07-26 21:54:48) |
16.《ネタバレ》 本作は元祖不倫映画という異名があるそうですが、肉体関係の一歩手前でふたりの恋が終わってしまうところは製作年代を考慮するとそれでも精一杯がんばったと言えるでしょう。それでもノエル・カワード脚本の上品でありながら巧妙な語り口は、現在の眼で観ても十分に通用するレベルです。セリア・ジョンソンは決して美人ではないけど大きな眼に魅力があって、現代の女優ではヘレナ・ボナム=カーターに雰囲気が良く似ているなと思いました。もし本作をリメイクするなら、ぜひ彼女を使って欲しいですね。そして生涯名バイプレイヤーだったトレヴァー・ハワードの一世一代の二枚目演技がとても新鮮です。 この映画では列車の疾走がふたりの官能の高まりのメタファーになっています。サイレント時代から喜劇なんかで良く使われてきた手法ですが、デヴィッド・リーンはメロドラマの情感表現として巧みに使っています。 リーンは大作を手掛ける映画監督というイメージですが、初期の小品にけっこう味がある作品が多いんですよ。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2012-07-03 09:28:38) |
15.《ネタバレ》 日常をよくあらわしているが、古式ゆかしい時代のアフェア。印象に残ったシーンは別れの言葉が言えず、肩にゆっくり重く手を置いていく。。 【HRM36】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-03-03 23:47:05) |
14.《ネタバレ》 これは評価が難しいですねぇ。ここでの点数が高いのでどうかと思ったのですが、ちょっと期待はずれ。なぜ2人が恋に落ちたのか、そこのところが今ひとつ納得いかない。もともと恋愛ものはあまり性に合わないので、その後の展開にも引き込まれませんでした。あと、ヒロインのモノローグがうっとうしくてしょうがなかった。スタンリー・ホロウェイと店のおばちゃんカップルは、主人公たちとうまく対比させていてよかったですが。 ということで気乗りせずに見ていたのですが、最期になって印象がガラッと変わりました。冒頭のシーンに戻り、その時にはわからなかった、ヒロインが姿を消したときの行動が描かれる。斜めにしたカメラワークが特によかったのですが、ここに来て、なぜこの場面を冒頭に持ってきて回想の形式にしたのか、なぜヒロインにモノローグで語らせる必要があったのか、腑に落ちたというわけです。この構成の妙に、ほとほと感心しました。そのあとの本当のラストシーンでは、「本当は旦那は気づいていて黙ってたんじゃないか?」と思わせるところもあり、なかなか深いです。 こうしたいいところもあるのですが、やはりそこに行くまでがかなりもの足りないので、残念。メロドラマの好きな人なら、もっと高く評価するんでしょうね。 【アングロファイル】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2009-08-16 16:29:37) |
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13.《ネタバレ》 不倫を扱った映画は今も昔も山ほどあるが、今の映画だと不倫をしている当事者である男と女が自分達さえ幸せならそれで良し、周りの人達に迷惑かけようがお構いなしで、その結果、死者が出ようが自分達の責任ではない。死ぬ方が悪い。そういうような何ともドロドロした内容のものになりがちであるが、この映画はそういうドロドロした部分が全くなく、だから見ていてもけして、嫌な気持ちにはならない。その事をデビット・リーンというこの監督はよく解っている。たった一度の過ちである不倫、しかし、この映画の二人の主人公はどうしようもないほど好きである気持ちを隠さない一方でお互いの家庭を壊すことだけはしたくない。だから絶対にお互いの夫や妻に対しても、普段のままであり続けようとする。けして、不倫の現場というものを互いのパートナーには見せない。こういう演出でさえ、やはりこのデビット・リーン監督は品の良さを感じるし、そういう労わりを持って描ける。だから一流の監督であると言われているのではないかと私は思います。今時のハリウッド映画や邦画だと直ぐに抱合い、ベッドに入り、挙句の果てにはお互いの家庭を壊し、そして、二人だけが幸せになろうとする。そういった品の無い不倫ものばかりが存在する中でお互いが別れを決断し、共に自分達の家庭へと戻って行くラスト、ローラの辛そうな顔を見てそっと声をかけるローラの夫の男らしい姿にこの映画全体の温かさ、優しさを感じると共にそして、いつまでもしつこく描かずにここでという所で終わらせるというのも上手い。昔の映画と今の映画の一番の違いはこのいつまでもしつこく描かない昔の映画としつこいほど描く今の映画、余韻を残したまま終わるからこそ映画は素晴らしいのであって、そういう所を今の監督には見習って欲しい。 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2009-06-06 16:53:58) |
12.《ネタバレ》 週に1回、数時間だけ(数分のときも)の出会いという設定が生々しくて現実感があるし、あっさり生活の壁にぶつかって挫折してしまうのもかえって新鮮だし、締めの夫の一言は何ともいえない余韻と解釈を残している。それにもかかわらず印象がそんなによくなっていないのは、あの延々としつこく隅々まで全部語ってくれるナレーションのせいです。あんなものはなくたって画面で十分語れるのではないでしょうか。情感が半減してしまいます。 【Olias】さん [CS・衛星(字幕)] 6点(2009-05-14 09:41:17) |
11.僕の好きな監督の一人デビッド・リーンの中で一番の名画。「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」のような大作もいいですけど、こういうしっとりとした大人のお話最高。人を好きになるって苦しいね。 【白い男】さん [地上波(字幕)] 10点(2008-12-18 00:02:29) |
10.《ネタバレ》 冒頭とラストで同じシーンを2度観せる、物語に深みを与えるその巧さ。この映画はデビッド・リーン監督のセンスが光り輝くほど素晴らしいです。その揺れ動き昂る感情を表現しまくるモノローグを主体にストーリーを進ませるのですが、これがもう見事。汽車の煙突から吹き出る煙の美しさ、駅の地下道の壁にあたる光と影の美しさ。そんな映像の美しさも含めて、とにかくセンスを感じる作品です。また主役二人が年齢的にも容姿で見てもリアリティがあって、そういった面も含めホント完成度が高い。 【よし坊】さん [DVD(字幕)] 8点(2006-08-19 21:49:20) |
9.「悪いことをしている」と良心の呵責にさいなまれながらも逢いたい気持ちは抑えられない。不倫をここまで人間味のあるリアルなドラマにしてしまうとは! 終始バックに流れているラフマニノフのピアノ協奏曲2番はとても悲しく心に響きました。 【maemae】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2006-01-29 12:10:33) |
8.昔新聞の土曜版で紹介されていて、気になって大学の視聴覚資料室にわざわざ見に行った映画です。ラフマニノフも聴きました。「恋におちて」との違いについてもいろいろ考えました。二人が会ったのは実はわずか4日間。二人の惹かれあう姿は少年と少女のようで、シリア・ジョンソンが、もう少し自分の気持ちに素直になったらもっと二人で素敵な時間が過ごせたのかも・・と最近は思います。「あなたを愛し始めた。しかし今二人の終わりも始まってしまった」周囲を気にかけ、嘘が現れたときにトレヴァーハワードが言った言葉はなんてせつないのでしょう。いい映画です |
7.眼にゴミが入ると、いつもこの映画思い出します。こんな風にステキな方が眼のゴミを取ってくれることはおそらく無いだろう・・・・私の人生ではね。 【かなかなしぐれ】さん 7点(2003-10-15 19:55:23) |
6.ドロドロしがちな不倫ものも、デビッド・リーンの手にかかれば美しい純愛ものになるんですね。登場人物も作品のつくりも良い意味で常識的で、最後まで安心して見れました。配偶者以外の誰かを愛することは誰にでもあり得ることですが、それを説得力と常識をもって美しい作品にするのはまさに職人芸。素晴らしい! 【なな】さん 8点(2003-07-09 21:12:36) (良:1票) |
5.デビッド・リーンはすごいなあと思ってしまいました。ラストの一言にジーンとしたあとで、不倫が成就したときは、ラストの一言はどう変わってしまうのだろうと考えてしまいました。 【omut】さん 6点(2003-06-20 06:48:26) |
4.不倫ものなんだけど、中年の美男、美女ではないし、偶然の出会いでちょっとよろめく、なんて今見てもどこにでもありそうな話。でもこの二人はつつましい。後ろめたさにビクビクしながら、でも逢いたくて若者のように不器用なつきあいを重ねる。で、どうするかというと結局女は家庭へ戻り、男はアメリカへ去る。最後の別れでさえ、不運にも言葉も交わせない。ときめきが終わり、女は意気消沈するが夫は待っているのね。でもこれで良かったと、安堵するようなラストだった。今時の生々しい不倫と違って、そそとした密やかな大人の恋が切なくてロマンティックだった。 【キリコ】さん 8点(2003-05-15 20:58:01) (良:1票) |