12.《ネタバレ》 78年。この年、アフガニスタンではイスラム原理主義者の武装蜂起が起こった。
共産政権に反旗を翻したテロリストたちは、瞬く間に全土を制圧しソ連との泥沼の戦争を繰り広げることになる。
80年代の終わりまで続くこの戦いが存在した時代の正義は「ソ連以外なら何でも良い」と言うことで世界中が即断した。してしまった。この甘さが、21世紀をとんでもないところに向かわせてしまうのだったが、このころの誰もがそれを知らない。
80年代、僕らがほんの子供だった時代に、日本では2人の少年が泥沼の戦いに興じた。彼らは互いに自分こそが正統であると主張し、その正しさに疑いを差し挟ませることをしなかった。
「おい、お前。俺こそがカンフーの達人、ジャッキーチェン様だ」
ボ、ボボーとインチキ臭い構えを取ると、彼に相対するもう一人のジャッキー様がボボッとさらにインチキ全開な珍妙スタイルを見せつける。
ものすごいゆっくりな攻防をお互いの特殊効果音で飾る。暗くなり始めると、
「今日はこれくらいだな、明日吠え面かかしてやるぜ」と石丸博也の口まねをして家に帰るのだった。
お互いが家に帰ると彼らが目にするニュースにはしっかりアフガニスタンの事が報道されていたのだが、もちろん全く目に入りはしなかった。
「こんなのジャッキーなら一発で解決だよな」
なんてセリフは一瞬で忘れてしまったりしたのだが、この後映画の世界ではジャッキーではなくランボーが解決してしまった。
容赦なく時が過ぎて二人は学校の帰り道、
「ランボー、スッゲエよな」
「やっぱ機関銃がタマンネエよな」二人はうなずいた。
そうやってカンフーマスターのジャッキーは少しずつ記憶から消えていき、スタローンやヴァンダムのようなアクションスターのワンオブゼムになっていった。
激動の時代に、のんきなカンフーマスターを演じていたジャッキーに憧れていた二人の少年はあの時代の不安定の脈動を後に知ることになったが、それと同時に偉大な達人を忘れていってしまった。
僕らは大切な何かを、永遠に忘れてしまいそうになる。それでも時々何かのきっかけで目にするマスターに、敬意を表してボボーと構えを取る。鏡の中のポーズは、あの頃となんにも変わらない珍妙なスタイルだ。あのともだちも、きっと時々自分の姿にがっかりしているに違いない。そんな友情がこの映画には詰まっている。
ほんとか?