11.《ネタバレ》 直訳で"むかしむかしのハリウッドで…"と称されるような、タランティーノ流おとぎ話。
界隈から消える恐怖に怯える元人気俳優役のディカプリオと、
トレ―ラ―暮らしでも達観しているスタントマン役のブラッド・ピットの組み合わせは意外にも絶妙で自然体。
20年前に人気の一位二位を争った二人が共演していたら大事件だったくらいに、
双方の魅力を偏りなく惜しみなく注ぎ込む。
一方、ストーリー自体は50年前のハリウッドの日常を業界ネタと併せて淡々と綴ったものでしかないが、
一見無駄と思われるエピソードの積み重ねが例の事件に集約される脚本の巧みさで最後まで引っ張る。
そう、往年の映画ファンならシャロン・テ―トとチャールズ・マンソンを知っていればその陰影がくっきり際立つ。
映画牧場のマンソンファミリーの得体の知れない不気味さと、待ち受ける悲劇を知らない映画館のシャロンの笑顔に、
『この世界の片隅で』を彷彿とする複雑な感情を抱かせる。
そして運命の時が刻一刻と迫り、どんな結末を迎えるか固唾を飲むことになる。
彼の過去作品を知っているものなら、結末は予想できるだろう。
しかし、これが変化球で強引な筋書きになっていないのが良い。
だからこそ現実で叶わなかった切なさでいっぱいになる。
シャロン・テ―トが少しでも呪縛から解き放たれ、"銀幕のスター"として永遠に生き続けること。
タランティーノの切なる祈りだ。