16.《ネタバレ》 私が当作品を知ったのは、まだ社会人になりたての頃、一人暮らし先にあったビデオレンタル店にて。パッケージの説明を読んで興味をそそられたものの、他にお目当ての作品があったのでレンタルを後回しにしていたら、店頭から姿が消えてそれっきりになっていました。
あれから約20余年。↓の【なたねさん】の投稿を機に「ああ!そういえば、そういう作品ってあった!」と思い出しました。「31年前の作品なので、置いていないだろうなぁ」とダメもとでレンタル店に行ったら…なんと!すぐ見つかりました。「自分が知らなかっただけで、実はコメディ作品としては不朽の名作なのかも」と感激し、早速、レンタルして鑑賞しました。
さて、結果は…良い意味で予想と異なる作風であり、これは名作だ!と感動しました。
まず、オープニングは、コミカルな音楽と共に幕を開けるのかと思ったら、「Short Time」という題名と共に、残り僅かな命を示唆するかのように、カチッ・カチッ…と時を刻む時計と、重々しい音楽が奏でられ…本編が始まると、残虐性は控えているものの極めて正攻法のポリスアクションが展開。悪党集団スターク一味を追跡した警官二人は爆死してしまって…ちょっとショックでしたが「真面目にしっかりと作っているんだな」と好印象。
バートを演じるダブニー・コールマンさんも、少なくとも私から観て、ズッコケるようなコミカルな演技はしておらず、【自分が亡き後の、幼い息子・ダギー、そして別れた奥さん・キャロラインの身を案じて奮闘する年配の男性】を、誠実に演じている印象を受けました。
そのため【当人が真面目であればあるほど、それに戸惑う周囲の人々のリアクションに対し、真相を知っている私達・観客の笑いを誘う】という演出なのだろうと、私は理解しました。そうは言っても、相棒のアーニーも、上述のキャロラインも、バートの変わりように戸惑いこそすれ、私から見て、さほどコミカルな演技をしている印象は受けませんでした。明らかにコミカルな演技をしているのは【出世欲の塊で嫌味なダン/TVドラマを見ている警官達】などごく少数。
むしろ「コメディだからって、変に茶化したり、手を抜いたりしないぞ」とでもいうような作り手の皆さんの心意気が伝わってくる思いがしました。
他のレビュアーさん達もおっしゃるように【ラッツ兄弟を追うカーアクション】は「いくらカーチェイスがお家芸のアメリカ映画とはいえ、コメディなんだから、ここまで本格的なアクションにしなくったって、いいんじゃないの?!」というほどの迫力。
次の【時限爆弾と共に人質を取って店に立てこもった男:この俳優さんの演技も、人生に絶望して切羽詰まった表情が、真に迫っていて上手い!】に対しても、当初こそ、バートが下着姿で臨む姿は、笑いを誘うものでしたが…店に入った後は「成長した子供達の姿を見たいだろう?」と説得に入ります。人生を見つめ直した年配者だからこそ語ることのできる、実感のこもった味わい深い言葉に満ちており、感動的な解決に至ります。そのため、その直後の爆発シーンは『感動モードになっちゃいましたね。スイマセン。コメディモードへ、リセットしまーす!』とでもいうような、グレッグ・チャンピオン監督の照れ隠しのように、私は感じました。このあたりは、ジョン・ブルメンタールさん及びマイケル・ベリーさんによる【脚本の妙】ということでもあるかな…と思われます。
その脚本について言えば、今回の騒動の発端になったバスの運転手さんに対しても、最後にけっして貶めることなく、素敵な言葉を添えています。その言葉については、これ以上、ネタバレにするのもどうかと思うので明記しませんが、このあたりにも良心的な配慮がなされていると感じました。
実は、私自身、歳と共に身体にガタが来まして…入院・手術をした経験もあるものですから「もし、自分も病気の発見が遅れて、手遅れだったら…」と思うと他人事ではなく、そのぶん、つい、真面目に観てしまったという面もあります。しかし、社会人になりたての頃でなく、この歳になって観ることが出来て、むしろ良かったかな…と思います。このタイミングで観る機会を与えてくれたシネマレビューよ、ありがとう!
さて、採点ですが…上述の通り、変に茶化したりせず、俳優さんと作り手の皆さんが一丸となって真剣に創りあげた作品だと思います。単純に笑って楽しむも良し、私のように自分と主人公を重ねて観るも良し…と観る人によって見方や感じ方が異なりそう、という意味で厚みがあり、“その場限りのお笑いで終始する作品”とは一線を画しているとも思います。コメディの名作として、採点基準の「傑作中の傑作」に則り、10点を献上させていただきます。