147.《ネタバレ》 人は誰しも「封印したい記憶」や「やり直したい過去」がある。でも時計を元に戻すことはできない。だから後悔や挫折から学び、それを糧に成長しようと努める。
主人公の「封印された記憶」は、つまりは「やり直したい過去」であり、それらを変えていくことで様々なパターンで自分の人生を擬似経験する。
多くの疑似体験の中で彼が常に目指しているものは、「自分の幸せ」だけでなく「大切な人たちの幸せ」も同時に存在することだ。
誰だって幸せになりたい。かと言って、自分以外の人々を犠牲にしてまで幸せになりたい訳でもない。
ゆえに彼は、自身と周囲に大きく影響していると思われる過去の出来事(=封印された記憶)に手をつけ、未来を変えようとする。
そこに悪意はない。ただただ、自分と自分の愛する人々の幸せを願ってのことだった。
この観念を持っているだけでも、彼は立派である。世の中には、自分さえ良ければ他人の幸福など気にもしない人間は腐るほどいるのだから。
しかし、努力の甲斐も虚しく、最後には必ず歪みが生じてしまう。自分が幸せになれば誰かが傷つき、誰かを優先すれば自分が犠牲になる。
悲しき現実である。
ここで利いてくるのが、冒頭に出てくるカオス理論。
「蝶の羽ばたきが地球の裏側で台風を起こすこともある」という理論を本作に当てはめるのは、些か大袈裟ではある。
しかしながら「大きな影響を与える出来事の裏に、常に大きな何かがあるわけではない」ということもまた真理なのである。
彼が最後に変えた過去は、愛する彼女との出会いそのもの。シンプルだが「愛する人との決別」という自己犠牲が伴う悲しい決断だった。
人を変えるきっかけというものは、いつの時代も至ってシンプルなことなのかもしれない。結ばれない二人の皮肉な運命から、切なくも真理を再認識させられた。