1.《ネタバレ》 くまのプーさんの世界というのは恐ろしくて魅力的だと感じた。
まずは、この作品のキャラクターたち。非常に親しみを持てるキャラクター達であるが、その誰もが著しく過剰な一面を持っている。カンガとルーは比較的まともだが、プーさん、イーヨー、ピグレット、アウル、ラビット、ティガーはいずれも妙にリアルな恐さを持っている。これを実写かつ人間でやられたら、少し精神を病んでいるのではないかと心配になってしまう人物のオンパレードだろう。こういう濁った目で無邪気なディズニーアニメを見てはいけないと思いつつも、ついついこう感じてしまう。イーヨーはうつ気質、ピグレットは異常なほどの怖がり、アウルは傍若無人な知ったかぶり、ラビットは神経質なしきりたがり、そしてティガーは常に躁状態である。実際、クリストファーのモデルであるミルンの子クリストファーは、この物語のキャラクターのイメージと自分自身の比較に生涯苦しめられたという。何とも後味の悪い話ではあるが、この異様なほどに「身近」に感じられるキャラクターこそがこの作品の魅力ではないか。人間の特性を細かに分割し、無邪気なビジュアルを持つぬいぐるみ由来のキャラクターに付与するという行為のアンバランスさ、不自然さ。デカダンスすら感じるのは私だけだろうか?
また、この作品でのハチミツという物質のもつ強烈な存在感も印象的である。ハチミツに飢えたプーさんは恐ろしい幻覚に苛まれながらも、ハチミツを手に入れるためにデスパレートな努力をささげ続ける。カエルがハチミツ入りのポットに見えるシーンやハチミツを手に入れたと錯覚したプーさんが泥の中を転げ回るシーンは異様な迫力に満ちていた。最終的にハチミツよりも友人を取ったことをクリストファーに褒められるプーさんを見て、思わず薬物の更生施設でのワンシーンを連想した私のほうが病んでいるのだろうか?
奇抜な不思議の国のアリスよりも、親子連れが客席の大半を占めるこの映画のほうがよっぽどヤバい作品を観た気持ちになった。「時計じかけのオレンジ」の「雨に唄えば」のような狂気を感じた。