2.《ネタバレ》 小津安二郎を敬愛し、生前の出演俳優のドキュメンタリーを撮ったこともあるヴェンダース初の邦画作品。
平坦なトーンで劇的な展開がないのに飽きずに見せる。
築50年近くの安アパートから一日が始まり、公衆トイレの清掃員としてルーティンワークをこなし、
ささやかなことに喜びと幸せを見出していた寡黙で孤独な男が、
姪の来訪と少しずつ近づく終焉の数々に、その"満ち足りた日々"が崩れていく不安を感じ始める。
彼の過去に何があったのかは分からない。
公衆トイレの設備にきめ細やかな手入れを行うプロとしての誇りとストイックさに敬意を覚えるくらいであり、
自由を謳歌している浮浪者に慈しみを感じながらも、実は過去に向き合えず逃げ続けていただけなのか。
彼の穏やかで急ぎすぎない生き方に憧れても、どこかで「本当にそれで良いのか?」という疑問を抱く。
充実しながらも後悔しているような、達観もしているような心の機微を役所広司が体現する。
人生に上下はないかもしれない、間違いのない選択肢などないかもしれない。
見えていないだけで主人公のような人生を送っている人たちが近くにどこかしらにいるのだろう。
せめてやりたくない末端の仕事を誰かがしていることに感謝の気持ちを持ちたい。