1.《ネタバレ》 いい映画だった。
静かな日常とその日常の中にある「世界」。
「世間と世界」だったり,「生まれ育った世界のままにいる友達と,海外の過酷な世界を生きた自分」だったり,「親の世界と子供の世界」だったり,「突然に終わる世界と,先の見えないまま続く世界」だったり……。色々な「世界」のつまった映画でした。
おそらく見た人の世界によって違う色を見せる作品なんだろうと思います。
私にとっては……この映画で真正面からえぐられたり突きつけられたりしたものはなかった。しかし「私の世界ではない,無数の世界を意識する」というスイッチが入るような作品でした。
主人公の絋は,よくいる無神経で外面がよく自分に対してだけナイーブぶってるおじさんだなあ。いるいるこういう人! という人物をすごくさりげなく描いていた。描き方がすごく巧みでした。
絋はすぐには変われない。でももしかしたら少しだけ変わっていくのかもしれない……という予感の中で死んでしまう。絋が死ななくてもこの映画はいい映画だと思うし,ともすれば「人の死」を扱うことでお涙頂戴映画にもなりかねないのだけれど,不思議と嫌味がない。
映画のコピーの中には,「半世界」というタイトルが「人生の折り返し地点」にもかかっているような表現もあったが,絋にとってそれははるか昔……おそらく明が生まれるさらに前にすでに訪れていた,という,「自分の半分はどこだったのか」と思わずにはいられない。
絋と対照的な瑛介は,遠い異国で過酷な世界を生き,その結果傷つき帰る場所も明確に見いだせていない。
やさぐれているかと思えば酒を飲み馬鹿話をする,たのしく語らっているかと思えば突然海で不可解な行動に出る,友達を鬱陶しく思っているかと思えばその仕事を励ます。とらえどころないその人物像が迷いながら生きるしかない瑛介の不安定さを表しているようで,不安定でいてとても魅力的な人物に思えてきました。
光彦は,絋と瑛介に比べ出番も少ないけれど,この二人のかすがいは彼なのだろうな……と思わせる。飄々と悩みのなさそうな反面,さりげなくフォローをしたり諌めたり。優しく懐の大きいところがこの映画の安らぎにもなっていたように思います。
どこにでもある日常を描いた映画……というのは苦手なジャンルでもあるのですが,日常のような非日常のような,不思議な余韻のある映画でした。
さりげなさもすごく上手くて驚きました。「未成年に酒を勧める」という日常ではありそうな風景だけど昨今の映画の倫理的によくない……という箇所の誤魔化し方とか。