1.《ネタバレ》 原題の「ミヒール・デ・ロイテル」は17世紀オランダの提督の名前である。
冒頭の場面で、ここはどこかと思っているといきなり海戦中だったのは驚かされたが、その後も全編を通じて帆船時代の戦列艦の戦闘場面がそれらしく作ってある。戦術的なことはよくわからなかったが、敵本国の港にいる艦隊を「海兵隊」(陸戦隊)で襲撃した場面と、オランダ艦の喫水が浅くできているのが映像化されていたのは印象的だった。ちなみに一般人の応援団が海辺で観戦するのがオランダ風なのかと思った。
ドラマ部分は複雑な政治史が背景にあるのでわかりにくいが、要は国内で敵味方を分断する政治闘争に巻き込まれながらも、主人公がいわば軍人としての分を守り(家族も守りながら)、党派を超えてオランダという国のために働いたことを顕彰する映画だったらしい。結果として、21世紀のオランダにも愛国心のようなものがあるらしいとは思わされた。
戦闘での無惨な場面はそれほどないが、劇中で最も残酷だったのは海戦ではなく、陸で民衆がやらかした虐殺だった(写実的絵画が残されている)。またどうでもいいことだが、最初の海戦の場所は字幕で「スヘフェニンゲン」と書いてあるが、これは「キンタマーニ」や「エロマンガ島」と並ぶ世界の珍地名として知られる「スケベニンゲン」のことである。
ちなみに自分がこの映画を見た動機は、トロンプとデ・ロイテルという、個人的に名前を知っていた数少ないオランダ人が出ていたことである。太平洋戦争の開戦当初、この2人の名前のついたオランダ軍艦が現在のインドネシアにいて、うち軽巡洋艦デ・ロイテルは昭和17年2月のスラバヤ沖海戦で日本海軍が撃沈したので日本でも知られているが、同じ名前はこれまで何度もオランダ軍艦の名前に使われており(今もある)、主人公がオランダ海軍で英雄扱いされてきたことが知れる。ほか劇中で主人公の盟友になった首相も、現代のドック型揚陸艦ヨハン・デ・ウィットに名前が使われているので、オランダではそれなりの偉人であるらしい。
この映画ではオランダとイギリスが戦争し、また第二次大戦ではどちらも日本とは敵味方だったわけだが、現代ではイギリスの空母とオランダの軍艦が一緒に太平洋に来て、海上自衛隊と共同訓練したりして(2021.8.25)、世界の枠組みも変わっていくものだという感慨がある。いわゆる昨日の敵は今日の友というようなことかと一応思っておく。