2.一介の主婦やサラリーマンを、伝記映画にする監督はいない。だからレイナルド・アナレスという、かくもドラマティックで波瀾万丈の人生を送った人物を映画の題材として選んだ時点で「ズルイ」のである。ストーリーは面白く、ホコリっぽい世界と澄んだ水の対比が巧妙で美しい。主演のハビエル・バルデムは文句なしに上手い。歩き方や話し方のカマっぽさの中に、鋭い視線が光っていた。また、ほんのチョイ役のジョニー・デップが、さすが大スターのオーラを感じさせる二役で、同性愛という性質上、女性キャストが少ない本作に、華を添えている。だから二時間以上の長い映画にもかかわらず、楽しむことが出来た。しかしこの監督は、アナレスに関するある程度の予備知識がない観客を相手にしていない。この時代の、バティスタ政権→カストロ政権→キューバ危機にいたる流れが、解っている上での運びとなっていて、キューバ人には当たり前の歴史でも、日本人の私は、少々混乱した。アナレスが最期に弱っていくのが、「エイズのため」という明確な言葉による説明もない。全体が詩的でスタイリッシュにまとめられているため、芸術の香りは強いが、エンターテイメントとしての解りやすさが、あまりにも無視されている様に感じた。少々辛いと思いつつの7点。