143.本来なら銃で脅して監禁しているジョンQが「悪」のはずなのに、ラストに至っては「ヒーロー」扱いされるという逆転が新鮮だった。
それでは真の悪とは何だったのか?
映画では一応、「病院」「警察」「マスコミ」等がジョンQとの対立軸にはなっている。
金儲けのためにしか動かない病院、市民を守るとの主張から犯人を撃ち殺してもかまわない、それが選挙のためにもなると考える警察、視聴率のことしか考えずにスクープを狙うマスコミ。
これらもいわば「悪」とも考えられるが、真の悪は役に立たない保険制度であり、金がなければなんともならない世の中に対する怒りが込められている。
この映画には「悪」が実物として存在しない点で実に面白い設定だと思う。
ただし、社会・保険制度への怒りという狙いは感じられても、息子を助けたい一心から来る父親の無鉄砲な行動に対する「答え」にはハリウッド的な甘さを感じずにはいられない。
「大丈夫、血液型が同じで心臓が肥大しているから大人の心臓でもちゃんと適合する」「よし分かった、手術しよう」というのはいくらなんでもムチャクチャだろう。このあたりは上手く処理しようと思えば出来たはずだ。
ジョンQの自殺前に、また息子の死の直前にドナーが現われるという偶然性。
自分の替え玉を利用し手術を見守る二人…確かに感動的だが果たしてそれで良いのか。
彼の行動には非難される点はなかったのだろうか。
自分も結構感動したクチなのだがどうにも脚本の甘さには参る。
自分には真のヒーローは手術を成功させた外科医だと感じる。
自分のキャリアを犠牲しても息子を助けるためジョンQから心臓を摘出しようとしていたし、監禁され疲労があるにもかかわらず最後まできちんと息子の手術を成功させた彼こそが真のヒーローだろう。
ジョンQの息子のことを一言「好きさ」と語ったのも見逃せない。
残酷なストーリーだが、ジョンQには死んでもらって、適合せずに一回目の手術は失敗。
すぐにドナーが見つかり最後にあの外科医が救うというストーリーでも良かったかなと思う。
あの外科医にはもっと光があたっても良かったのではないかという気がする。