16.睡眠中の「夢」というものを、本当によく見る。
前夜に見た夢のことをつらつらと思いめぐらせて、一日が過ぎるということもしばしばある。
そういう者にとっては、この映画の完成度は殊更に高まると思う。
「夢」の世界の中で巡りめく攻防を描く今作。
先ずはストーリー展開がどうのこうの言う前に、その世界観のクオリティーの高さにおののく。
夢をよく見る人であれば、常に感じているだろう“夢”という世界の“目まぐるしさ”を完全に表現している。その映像世界が、先ず圧巻だ。
表面的な現実感と同時に存在する、時空と空間を超越する「感覚」。
そういうことを、現時点で成し得る映像表現の全てを使って”具現化”している。
その映像世界を構築した時点で、この映画の価値は揺るがない。
「ダークナイト」ですっかりメジャー監督となったクリストファー・ノーランだが、よくよく思い返せば、彼は「メメント」の監督なわけで、この手の作品こそこの映画作家の“真骨頂”ということなのだろうと観終わって納得した。
ただし、この映画に対して充分に評価した上で言わせてもらうならば、
物凄い製作費を投じて生み出された作品ならではの、出来るだけ広いマーケットを意識した“譲歩感”は感じられる。
恐らく、クリストファー・ノーランの本来の「構想」は、もっと無遠慮に難解で、歪んでいく映像世界を凌駕する程にねじり込まれたものだったのではないかと思われる。
“鑑賞者”として物凄く身構えた分、ストーリー展開に対しては、案外“ストレート”な印象を受け、一抹の物足りなさも感じた。
詰まりは、もっと人間の精神的な内部に踏み込み、その不可思議さに対する顛末を表現出来たのではないかと思う。
主演のレオナルド・ディカプリオが、もう一つ弾き切れていなかったことも、そういった“遠慮”が少なからず影響していたように感じてならない。
一概には比較出来ないが、ディカプリオのパフォーマンスだけを捉えるなら、今年公開された「シャッター アイランド」の方がインパクトがあった。
まあ、とは言っても、とんでもないオリジナリティに溢れた映画だということは間違いないし、その映画のセカンドネームに「Ken Watanabe」がクレジットされていることは、日本の映画ファンとして誇り高いことだと思う。