8.《ネタバレ》 とてもこだわりを感じる映画です。タイトルのとおり、アルプススタンドのはしを中心に映し続け、出演するのは数名の生徒と一人の先生、その他応援の生徒のみ。野球の試合であるにもかかわらず選手やグラウンドは一切映されません。出てくるのは名前のみ。相手の4番、松永くんと、こちらのエース園田くん、そしてヘタクソな努力家、矢野くん。名前しか出てこないにもかかわらず、この三人は驚くくらいキャラクターが立っていました。一瞬たりとも顔どころか姿も見せない、声すらもない、そんなままでここまで人を描くことができるのかと、感動を覚えました。素晴らしい映画です。
私も彼らのように「アルプススタンドのはしのほう」に陣取るタイプです。賑やかに応援するエリアを避け、やや静かな空間を見つけてそこを自分の居場所にする、そんなタイプ。そんなタイプの四人が集まって、「なんで野球だけ特別扱いなんだろう?」とか「送りバントって何?」とかあまり真剣に野球を見るでもなく応援するでも無かった。しかしそんな四人のうちの一人が先生の熱意に同調し、園田くんを応援する秀才・宮下さんもそれに続き、二番手ピッチャーを運命付けられて部を辞めた藤野も続き、最終的にみんな気づいたら声を張り上げて応援していた…。
ある意味グラウンドとスタンドは別世界なのかなと思いました。選手たちはグラウンド内で自分たちの闘いをするわけですが、スタンドのほうはある意味で試合そのものとは関係なく、そこにいる人たちがそれぞれ自分と野球、それと選手たちとの関わりを見つけそれを試合や選手に投影して楽しんだり応援するものなのかな、と。
私も正直野球の応援というのがそんなに好きではない。サッカーやバスケは学校をあげて応援なんて全国レベルの強豪校でもない限り無いのに、なんで野球だけは一回戦から、しかもそれほど強くも無い無名の学校でもみんなで応援に行くのが当たり前のような雰囲気があるんだろう、と、作中のセリフそのままのことを私も思ってたので、強く同調しました。この映画を見てもそのあたりの疑念を払拭はできませんが、でも頑張る誰かや好きな誰かを一生懸命応援するというのも良いもんだなと思いました。姿も声も聞こえてきませんが、矢野くん、最高です。