1.住み慣れた故郷を離れなくてはならないという話は同じようなキャストで作られた「家族」とよく似ている。
仕事を失って故郷を離れるという話や、登場人物の役名まで一緒だったりする。
この70年代はじめというのは日本が大きく変化していった時代なのだが、この一家をとおして、高度成長期という時代の中でいかにして人々の暮らしが変わっていったかが分かる。
石船は海の埋め立てで石を運んでいるがそれも大型船にとって替わられつつある。こうして田舎で立ち行かなくなった人たちは、人手をいくらでも必要とした都会の工業地帯に吸収される。そして働き手が都会に出た後の田舎には老人たちが残される。
一家が島を去る前老人は孫を連れて高台に上り、「ここがお前の故郷だ」と目に焼き付けるように見せるのが切ない。
人々はこうして至るところで住み慣れた故郷を離れていったというだけではなく、同時にその美しい自然まで失っていった。
こうした時代の変化を知る世代としてはここに描かれた全てに深い感慨を覚えずにはいられない。監督の意図したものも単なる郷愁だけではなく、生活の向上と引き換えるように大切な自然や家族の絆といった大切なものを失ってしまった日本への嘆きだっただろう。