9.《ネタバレ》 過去に商法・手形小切手法をかじったことがある身だけど、正直言って約束手形と言うものは実に判りにくい制度でもある。約束手形の法理なんて理解できていたとは言い難いし今ではすっかり忘れてしまったけど、約束手形と言うものは厄介な代物で無借金経営の様な優良企業には用ないものだというイメージがある。なんでも2026年には紙の手形小切手は廃止されて電子化されるそうで、最近はめっきりニュースなどでも耳にすることもなくなっている手形パクリや手形サルベージと言った犯罪も消滅してゆくんだろうな。 高木彬光の原作は、手形詐欺を扱った日本では珍しい部類の推理小説というか経済犯罪がテーマのピカレスク小説です。この映画化である本作は、角川春樹がプロデューサーをしているけど角川映画ではなく、あくまで東映の映画です。だもんで、普段の角川映画では見られない様な大物俳優がこれでもかというぐらいに登場する賑やかさです。友情出演や特別出演の大物の他にも、原作者の高木彬光や角川春樹そして鬼頭史郎(もはやこの人が何をやらかしたのか覚えている人はいないでしょうね)といった色物(?)までも顔だししてるんですからねえ。主人公演じる夏八木勲は、確かに大作映画の主演と言うのは珍しい言えますが、終始脂ぎった色艶の顔でとても東大法学部卒のインテリらしくないところが難点だったかもしれない。実在の事件をモチーフにしているそうですが、劇中で描かれる手形パクリの手口はなんか乱暴であまり知的な感じがしないってのもどうなのかな。実際夏八木勲は善意の第三者という盲点を突いて稼ぐわけだけど、起訴されないとは言っても警察には完全にマークされているわけで、どこかで綻びが出て逮捕されるというのは必然でしょ。闇の権力者の尽力で保釈されて結局は海外に逃亡するという結末には、ちょっと肩透かしされた気分です。けっきょく昭和のアナログ時代のお話しで、生身の姿を相手に晒さないといけなかったのが宿命で、匿名が当たり前の現代のSNS詐欺の方がはるかに知的犯罪としての要件を満たしているんじゃないかな。 監督の村川透は本作がフィルモグラフィ中で最大の大作、でも撮り方は東映セントラルフィルム時代と同じなんでなんか安っぽさが目に付いちゃうんだよな。千葉真一なんかもうちょっと違う活かし方があったんじゃないかな、出番は少ないしあれじゃ『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利と大して変わらん(笑)。 【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-08-03 23:58:00) |
8.《ネタバレ》 岸田森の焼身自殺から始まる只ならぬスタートからこれはタダでは収まらない予感通り、夏八木勲がどんどん変わって行く。夏八木勲に忍び寄る悪魔、島田陽子の美しくも悲しい姿にどんどん引き込まれていく。地獄の果てまで付いて行くと言う島田陽子の幸薄い演技、この女優さん程、幸薄い役が似合う女優さんは居ない。犬神家の一族の珠代さん、砂の器の高木恵理子に今作といい、幸せとは無縁な儚い女が似合う。他には役者の顔ぶれ、ギラギラした雰囲気、犯罪映画として見所満載!夏八木勲と藤岡琢也のやり取りは可笑しくて笑ってしまいます。可笑しいという意味では西田敏行の初登場シーンが釣りバカシリーズの浜ちゃんみたいで、笑ってしまう。犯罪映画には不向きな俳優が何人か居るが、それを補うだけのスリリングなストーリー展開に2時間半の長さも苦にならない。それにしても藤岡琢也の嘘芝居といい、西田敏行の浜ちゃんみたいな感じやら、まんまと騙される長門勇といい、本物の木下の丹波哲郎、誰もが役に相応しい顔触れを見せてくれているのが凄い。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2019-02-07 19:14:49) |
7. 高木彬光の原作は金融ピカレスク小説としては出色の作品。文庫本だとかなり分厚いのですが、一気に読めました。手形のパクリ、株の信用売買などなど、現在にもつながるような内容で、実に巧妙に詳細に手口が表現され、夢中になった記憶があります。 封切り当時はまだ子供でダウンタウンブギウギバンドの主題歌は耳に残っているのですが未見で、中年になってやっとDVDで視聴。しかし、、、大筋は原作は追ってるものの、醍醐味である金融犯罪部分は薄っぺらく、Vシネマばりのアクションが続くのみ。せっかくの俳優陣を揃えたのにがっかりでした。例えるなら「白い巨塔」を手術の血しぶき部分のみ映画化したような感じ。村川監督は好きなのですが、この人はおそらく会社組織や金融の知識や興味がほとんどないのではと。「蘇る金狼」なども、アクションは面白くいい映画なのですが、会社組織の描き方があまりに荒唐無稽でした。 映画公開時にテレビシリーズでやった渡瀬恒彦、山本圭出演のドラマの方がよかったなあ。 【いそろく】さん [DVD(邦画)] 6点(2018-06-02 22:21:51) |
★6.《ネタバレ》 角川春樹が「悪魔が来りて笛を吹く」に続いて自社作品以外でプロデュースを手掛けた犯罪映画。戦後を舞台に手形詐欺を繰り返す男の生きざまを描いた大作であるが、多少の雑さはあるものの、詐欺の手口の爽快感に加え、出演している俳優陣も豪華で、中でもやはり主人公・鶴岡七郎を演じる夏八木勲の存在感、あまり主演作を見たことなく、どちらかといえば脇役の印象のほうが強いのだが、鶴岡の冷徹な悪人という部分をうまく出していて主役として見事なはまり役。事件を追う検事役の天知茂もそれ以上の存在感があり、緊張感のあるこの二人の対決もみどころの一つとなっていて、2時間40分近い長尺(村川透監督の映画でここまで長いのは珍しい。)ながら最後まで飽きずに見ることができた。最初のニセ会社を使った詐欺の部分における藤岡琢也演じるニセ社長が鶴岡に演技指導を受けるシーン(この藤岡琢也や西田敏行の使い方がさりげなく良い。)や、原作者の高木彬光がカメオ出演したそのニセ会社の社員を募るオーディションのシーンは思わず笑ってしまう。カメオ出演といえば初期の角川映画では角川春樹がほぼ必ずカメオ出演しているのが常だが、本作では鶴岡に金をだまし取られた専務(佐藤慶)の会社の社長役で、出番やセリフもいつもよりも多い気がする。冒頭は隅田(岸田森)の焼身自殺というショッキングなシーンだが、それに対してラストは鶴岡が替え玉を使って焼身自殺を装って国外逃亡というのが見事にリンクしていてそういうところも良かった。(ちゃんと伏線となるセリフも劇中にあり。)ただ、鶴岡の詐欺をひとつひとつもう少しじっくりと見たかったという思いもあって、そういう意味では映画よりも連ドラ向けの物語なのかなと思った。渡瀬恒彦の連ドラ版も機会があればいつか見てみたい。とはいえ、今まで見た村川監督の映画の中ではいちばん面白かったことは確か。ダウンタウンブギウギバンドの主題歌も映画によく合っていたと思う。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 7点(2018-05-03 19:29:30) |
5.《ネタバレ》 初見。存在感たっぷりの豪華俳優陣の中で天知茂は別格でありその目力には痺れます。数々の詐欺の手口は漫画チックに見えて現実味が感じられませんが、自分の前で騙されてゆく者に対する舌なめずりするような鶴岡の目つきは犯罪人そのものでした。結末に当時のキャッチコピー「狼は生きろ、豚は死ね」を思い出しました。大切な者皆を死に追いやった死神は狼ではないと言いたいです。原作を読みたくなりました。 |
4.とにかくテーマ曲「欲望の街」がいい。これほど大げさでありながら、独特の世界観を持ち、大の大人が熱唱しても恥ずかしくない曲はそうそうありません。この映画はこの曲にずいぶん救われていると思います。 それにチョイ役の柴田恭兵とか、今とほとんど変わらない西田敏行とか、びっくりするぐらい美人の島田陽子とか、役者の若い頃の姿も堪能できます。千葉真一は甲高い声のせいか、やっぱりチャラいですね。 しかし、作品としてはイマイチ。キモであるはずの金融取引詐欺のカラクリを、適当に端折ってごまかした印象です。とても「東大きっての頭脳」を駆使しているようには見えません。だから薄っぺらい詐欺師の話になって、リアリティも緊張感もありません。遠い昔に読んだ原作では、もっと迫真の描写があったような気がするのですが。他の方も指摘されていますが、同じく遠い昔に見たテレビ版(渡瀬恒彦のやつ)のほうが、ずっとクオリティは高いと思います。とはいえ、ラストの「欲望の街」を聞いてすっかり満足しちゃいましたが。 【眉山】さん [インターネット(字幕)] 6点(2015-11-28 04:41:30) |
3.《ネタバレ》 夏八木勲氏が死去ということで脇役が多いこの俳優の主演映画を鑑賞。ドラマ版が面白いと聞いていたが、楽しめた。原作は未読、光クラブを題材にドキュメンタリーかと思っていったら、なかなか、オリジナルで、法の盲点での完全犯罪。色々なくせ者な役者相手に、夏八木勲の存在感があって、さすがかと。すこし、尺が長いが十分楽しめる佳作でした。 【min】さん [DVD(邦画)] 8点(2013-06-02 22:40:29) |
2.《ネタバレ》 日本ミステリ史上に残るこの作品を、しかも映像化は困難と普通は考える内容なのに(密室もアリバイも犯人当てもなければ、手形の割引がどうのこうのとか難しい話ばかり。しかももっぱら利得目的の犯罪者が勝利してしまう)、映画として完成させた制作者の努力と執念が凄まじい。そして今年やっとDVD化されました。この快挙を盛大に祝いつつ、我を忘れて見所を列挙する。●稀代の大犯罪者・鶴岡七郎が夏八木勲って、合うのか?とここが一番不安だったのですが、さすがこの人、ぴったり人格表現まで込めた演技をしていますね。そもそも、真の詐欺師は分かりやすい詐欺師面はしていないわけで(むしろ、一見していい人っぽい人ほど、相手の警戒心が下がって実行しやすくなる)、その意味からも、案外、初手から正解なキャスティングだったのかも。英語の台詞の箇所でも同じように演技しているのも、さりげなく凄い。●宿敵・福永検事には天知茂、隅田光一には岸田森!(←出番は一瞬ですが)脇を固めるのは、日本俳優界の至宝ともいうべき巧者の面々!!九鬼善司は原作ではもっとアホっぽいのですが、中尾彬の好演によって、まともな人になっています。ここは原作以上。藤岡琢也のニセ木下は、あまりのイメージどおりっぷりに笑う。●冒頭で東京裁判の実際の映像を出しておいて(終戦直後という時代背景が重要なので、これはある種必然)、一気に原作序盤山場の隅田の自殺シーンから作品開始。この手際の良さもかなりのもの。そして、実際の詐欺の描写も、見る側に理解できるか?とかいらん配慮なしで、きちんと骨格を押さえているのが素晴らしい。あの「幽霊会社詐欺」や「大使館詐欺」が実写で見られただけで感涙。●福永検事、どうみても令状なしに勾留してるわ、さりげなく手錠付で取り調べてるわ、保釈をエサに自白取ってるわで、実はやってることは滅茶苦茶なのですが、これもご愛敬。最後、夏八木さんが、肝心のところで「刑訴法」と「刑法」を言い間違えちゃってるのもご愛敬。●高木先生、どこで登場するのかと思っていたら、そこですか。大笑いしちゃいました。でも、あの場面は作者にとっても心躍るシーンのはずで、あそこに登場できるのは嬉しかっただろうね。 【Olias】さん [DVD(邦画)] 8点(2012-08-28 00:52:03) |
1.《ネタバレ》 村川透監督の犯罪映画は、松田優作作品などもそうだけど、そのテンポの良さと歯切れの良さで、矛盾を感じさせない辺りが面白い。物語は戦後犯罪史上で有名な「光クラブ事件」を元に、一人の野獣青年が辿った戦後の闇を描いているが、天知茂扮する敏腕検事とのコンゲームとしても秀逸。劇中での西田敏行や藤岡琢也の使い方もレトリックとして面白く、最期まであきさせない秀作になっている。賛否両論ある角川映画だけれど、それまでの映画システムでは絶対企画には上がらなかったであろう小説作品に映像化の機会を与えただけでも、評価されるべき点は多いと思う。 【柿木坂 護】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-07-30 10:26:24) |