16.《ネタバレ》 仕事熱心で真面目な兄を思って、自分もタイピストとして、貧しいながらも真面目に働いて、ろくに恋愛をしてこなかった桐子。…兄思いでキーパンチャーだった寅さんのさくらと被るなぁ。殺人犯の妹として熊本で働き続けられなくなり、銀座のスナック(※BAR海藻とあるが、同僚「表の明かりを消して12時過ぎまで営業云々」って、ちょっぴり違法な店)に身を落とす。 さて、熊本の田舎から遠路はるばる東京まで(しかも終始鈍行列車で)、電話の1本も入れず弁護士事務所に直接訪問する桐子。こんな常識外れな桐子に、大塚弁護士は直接会って断るという、誠心誠意、紳士的な対応をしています。弁護費用は約80万円。当時の初任給が約17,000円~20,000円、ラーメン1杯は80~100円の時代、およそ今の1/10と考えると、20歳そこそこの娘に払える金額じゃありません。それでも『費用を1/3にまけろ』と言うから、桐子はそれなりの金額は払う覚悟はしていたんでしょう。 大塚は弁護を断ったがために逆恨みされます。桐子のしつこい性格から考えて、もし引き受けて、裁判で負けても、やっぱり逆恨みされたんじゃないでしょうか?この時の大塚に非があるとしたら、断る口実の一つに『多忙』と言っていたのに、愛人の経子に会いに行っている。特に説明はないですが、川奈(ゴルフのメッカらしい)と聞いて、桐子は察したんでしょうね。 推理好きは、サウスポー山上の登場と『犯人は左利き』って情報を結びつけます。観るものに『こいつが真犯人だ』と思わせます。更に桐子の前で2回もライターをいじって、そのライターが経子の事件現場に。 兄の事件と経子の事件は良く似ています。兄も経子も犯人じゃないのに、嫌疑を恐れて現場を逃げています。桐子が、山上こそ2つの事件の真犯人だったって証明する結末こそが、復讐劇の王道展開です。でも桐子は死んだ兄の汚名を晴らすのではなく、大塚の因果応報に結びつけたんでしょう。お金が払えないから兄を救わなかった大塚を逆恨みし、自分は復讐のために愛人経子を救わない。また大塚に対し仕事外(ツン)と仕事中(デレ)のTPOの使い分けを徹底しているのも、結末を考えると計画的で恐ろしい。 タイトル『霧の旗』。「霧は音を立てて流れる」…じゃあ旗は?霧は=桐子でしょう。旗は…昔は女の生理日を“旗日”と呼んでいました。当時白が多かった女性下着の一部が赤く染まる様子から生まれた隠語です。桐子は憎い大塚に自分のもっとも大切な処女を捧げ、それが大塚を陥れる動かぬ証拠となりました。水商売の桐子が処女だったという予想外の結末が、意味不明だったタイトルに結びついたようで、モヤモヤが晴れるとともに、改めてゾッとしました。 【K&K】さん [DVD(邦画)] 8点(2024-10-26 11:09:19) |
15.ストーリーはたいしたことはないんだが、やはり何と言っても倍賞千恵子のクールさの中に垣間見える小悪魔のような可愛らしい表情と演技が素晴らしい。リメイクドラマは何作か見た事があるが、初回作品がこの出来だと中々勝てないだろう。 |
14.《ネタバレ》 柳田が依頼を断ったことにはきちんとした理由があり、どこがいけないのかまったく分からない。一方で桐子は、依頼先が自分のために十分に仕事ができるかどうかを合理的に判断することなく、ただ「この高名な弁護士なら兄を救ってくれるはず」と思い込んでいるだけである。つまり、事態を解決することが目的でなく、依頼をすること自体が目的になってしまっている。よって、スタートからして間違っているので、この話は通り魔的な理不尽話であって、例えば「ケープ・フィアー」とか、もっといえば「ファニーゲーム」みたいなものである。それをこの作品は、桐子にもそこそこ同情の余地があるかのように描いているので、わけが分からないことになっている。一方で、後半の柳田は「高名な大物弁護士」とはとても思えないノーガードぶりを連発しており、ハードルが下がりすぎているので、復讐ものとしても達成感は希薄である。 【Olias】さん [CS・衛星(邦画)] 3点(2022-04-16 23:18:38) |
13.倍賞千恵子といえば、寅さんシリーズと山田洋治の民子3部作等で真面目で真っすぐな女性を演じることで、確立されてしまっているが、本作は清張原作ということもありサスペンスかと思いきや、怖い怖い復讐の鬼と化した女性を真面目な顔で見事に演じ切っている。面白いかといえば、まぁまぁです。 【SUPISUTA】さん [DVD(邦画)] 6点(2017-06-17 22:26:03) |
12.山田洋次監督にしては、珍しいサスペンス作品。 松本清張原作ということで殺人は絡んでくるが、人間ドラマの色合いが濃い。 倍賞千恵子がヒロイン役を好演。地味で真面目なキャラが本作の役柄にピタリとはまり、 それが終盤からラストにかけての展開に、より痛快さを与えている。 女性の情念の深さとともに、人生訓を思わせる裏テーマがストレートに伝わる良作。 【MAHITO】さん [DVD(邦画)] 6点(2012-09-17 07:52:53) |
11.消費税が上がり、経済が右肩下がりのこれからの日本。時代は松本清張という気がして、観ました。山田洋次って本当は女性がこわい?倍賞さんの敵の弱みをにぎってからの優しい表情に「こわ~」という感じでした。 【トント】さん [ビデオ(邦画)] 7点(2012-08-13 06:18:00) |
10.《ネタバレ》 サスペンス仕立てだが、作品自体のテーマは、復讐劇そのものだ。 女の恨み、執念、その怖さが存分に、そして巧く描かれた内容。 終始、表情の無い倍賞千恵子が、執念深い女を実に巧く演じている。 そして特筆すべきは、大物弁護士を演じた滝沢修。 落ち着いた演技と、それとは対照的に、終盤に見せる落ちぶれた演技。 実に貫録十分の演技で、舌を巻くほど素晴らしかった。 【にじばぶ】さん [DVD(邦画)] 7点(2012-04-12 00:39:42) |
9.《ネタバレ》 松本清張の原作・橋本忍の脚本だけあって、見事な出来でした。原作は読んでいませんが、映画としての面白さを充分に発揮していたと思います。それにしても、大塚弁護士、かわいそう・・・ 音楽は、林光だったんですね。いま初めて知りました。次回観ることがあれば、今度は音楽にも耳を傾けて鑑賞したいと思います。 【ramo】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2011-08-30 16:04:05) |
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8.《ネタバレ》 兄が殺人犯として逮捕された女が、兄の無実を信じて東京の有名弁護士に弁護を依頼する。時間的に余裕もなく、依頼人にお金が無いと知った弁護士は依頼を断る。数年後兄は拘置所で病死。それを知った弁護士は好奇心から事件の資料を取り寄せ、調査する。結果犯人は左利きであることを発見、兄が無罪であったかも知れないと思う。故郷にいられなくなった女は東京でホステスとなる。弁護士と再会するが、気まずい空気が流れる。 偶々事情を知っている新聞記者は女に同情するが、女は冷たい態度を貫く。 弁護士の愛人に関係する男が殺される。事件現場に女と愛人が居合わせる。女は愛人の手袋を置き、犯人の遺留品を持ち去り、現場には居なかったと嘘の証言をする。愛人が容疑者として逮捕される。弁護士は女に真実を話すように頼み、代わりに兄の無実の証明をすると申し出る。女は承知したと言い、部屋に案内し、巧みに酒を飲ませ、強引に関係をせまる。そして強姦されたと検察に手紙を送り、弁護士生命を絶つ。 ◆復讐劇だが、女が事件現場に居合わせたのは偶然。女は偶然を利用したに過ぎない。企図したものではないので、復習劇としてはインパクトが弱い。女が無実の罪で死んだ兄の名誉を晴らすことに心を砕かないのは何故だろう。あれだけの兄思いだったのに、不自然さが残る。 ◆兄を殺した犯人も第二の殺人事件の犯人も誰かはわからず終了。愛人は無実の罪をきせられたまま。すっきりしないオチにいらだちも最高潮だ。女が弁護士にそれほどの復讐心を抱く理由があるだろうか?そもそも完全な逆恨みではないか。弁護士は依頼を受けなかっただけで、悪いことは何もしていない。そんな異常な女を扱っても観客からは同情は得られない。「女って怖い」ぐらいの感想しか得られないだろう。誰がみても復讐を抱くだけの理由があるようにしないと物語が成立しない。そして犯人が元投手であるとはっきりわかるように示せば、すっきりしただろう。 ◆他にも疑問点がある。兄が学校のお金を落としたのに誰にも相談しなかったこと、女が弁護士にあらかじめ電話や手紙なしに訪問すること、女が味方のはずの記者に冷たい態度をとること、愛人が単に怪しいというだけの理由で逮捕されることなど。穴だらけの脚本である。日常に待ち受ける陥穽を描いた原作が泣いている。題名の「霧の旗」の旗の意味も不明。霧だから桐子? 【よしのぶ】さん [DVD(邦画)] 5点(2011-08-29 18:32:29) |
7.《ネタバレ》 松本清張の推理小説は学生の頃よく読んだ。「点と線」「眼の壁」「ゼロの焦点」「霧の旗」「砂の器」など、それらの多くは映画化された。中でも「霧の旗」は私が最初に見た松本清張映画として、鮮烈に記憶に残っている。 松本清張の推理小説は、奇抜なトリックや犯人捜しをするいわゆるミステリーものとは違って、社会派推理小説と言われるもので心情面を特に重視している。犯人の動機に重点を置くことによって、現実社会の矛盾や非条理を追求している。 この「霧の旗」はそういう社会派推理小説の代表みたいなもので、殺人容疑の兄の無罪を信じて奔走する妹が主役となる。 両親を早く亡くし貧乏な生活の中で、どうやって兄を救うことができるのか、また、汚名を着せられたまま死んでいった兄の無念をどうやって晴らせばいいのかを、私たちに投げかけている。 この桐子を演じた倍賞智恵子は本当に素晴らしい女優である。 【ESPERANZA】さん [映画館(邦画)] 8点(2011-02-11 12:25:59) |
6.《ネタバレ》 大塚弁護士が九州の殺人事件の弁護を断ったのは、業務の流れからは当然といえる判断です。でも、倍賞千恵子側の視点では、資金の不足、(国選?)弁護人の無気力、兄の獄死といった不幸が、大塚弁護士の責任に転嫁されて行った。典型的な逆恨みです。実は、最後は真犯人を見つけてハッピーエンドかと思っていたので、復讐劇だったことに少なからず驚きました。敢えてテーマをあげるなら、人の心情が目に見えないことの怖さでしょうか。意思が強く頑なで、思い込みも激しそうな倍賞千恵子だったけれど、正義感が強そうに見えたので、まさかあそこまでドロドロの復讐心に囚われていたとは思わなかった。可愛い顔とのギャップを見せどころにしています。逆恨みに起因する仕返しなので、達成されたところで爽快感は皆無。人のネガティブな執念に引きずられる映画でした。山田洋次監督を勝手に人情ものの名手と位置づけていたけれど、これもある意味人情ものなのね。「男はつらいよ」以前の作品は初めてだったが、サスペンスタッチの今作でも、すでに堅実な演出手腕を感じました。 【アンドレ・タカシ】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-03-25 01:29:44) |
5.《ネタバレ》 後味の悪さが後を引く作品。これは確信犯的なものだろう。人間の残酷さ、冷酷さ、恐ろしさ、理不尽さといったものを描き切っている。さすが松本清張・橋本忍・山田洋次という才能のある者が関わった作品だ。タイトルにあるように霧に包まれたようなボンヤリとした状態が続き、最後までその霧が晴れないという気持ち悪さを存分に味わえる。凡人ならば、大塚弁護士を悪徳弁護士の設定にして、もうちょっと彼に非があるようなものにしてしまうだろう。そのような設定にすると、印象もがらっと変わってしまう。「復讐が成功した」という晴れ晴れした気分となるが、単なる復讐劇でしかなくなり、すぐに忘れ去れてしまい、本作のような気持ち悪くなるインパクトが相当に薄れてしまうのである。 東京の高名で多忙な弁護士が九州の事件を断るというのは当然の流れである。弁護料と称して金だけぶんどって事件を解決しないという類ではない。事務員が断ってもいいものをあえて面談して比較的丁重な断りを入れている。その後も事件を独断で調査するというようなところをみせており、大塚弁護士自身は非常に仕事熱心であり、有能な人材ということがよく分かる。そのような彼が不当な扱いを受けなくてはいけないということが、人間や人生というものの奇妙さ・不可思議さ・理不尽さが垣間見られる作品へと昇華させる。 本作に描かれた2件の殺人事件は同じようなケースである。桐子の証言や物的証拠がなければ、有能な大塚弁護士でさえも無罪や釈放を勝ち取ることができないということは、裏を返せば九州の事件も大塚弁護士は解決できなかったといえるのかもしれない。 左利きの者が犯人ということが分かっても物的証拠がなければ、逆転無罪を勝ち取ることは困難だっただろう。桐子がいくら大塚弁護士に頼んでも、兄の事件の顛末は変わらなかったかもしれないということを桐子自身が分かっているということにもなる。 また、桐子の行動によって真犯人は野放しにされており、その真犯人はひょっとすると兄の事件の真犯人かもしれないということもいえる。桐子の行動は相当に自己矛盾をはらんでいる。人間の行き場を失った“恨み”というものはそういった矛盾や理性といったものすら凌駕するということを本作は伝えたいのかもしれない。 桐子の行動の不条理さが気持ち悪くて評価を低くしようとしたが、この映画はかなり深い(不快ではなくて)作品だ。 【六本木ソルジャー】さん [DVD(邦画)] 7点(2009-11-28 10:36:52) (良:1票) |
4.倍賞千恵子が「男はつらいよ」の「さくら」という役に出会わなかったら、もっと幅の広い女優になっていただろうなあと思わせる、見事な演技をしています。 あとこれは原作へのケチになるのかも知れませんが(未読なので分かりません)、何故一人の弁護士にああまで こだわるかの説明が不十分。本当に兄のことを思えば、必死になって他の有能な弁護士を探すんじゃないでしょうか? 若いから「思い込んだらまっしぐら?」とすると、その後の計算高い復讐と合わない気がします。 【くろゆり】さん [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 7点(2007-12-29 13:13:52) (良:1票) |
3.最後すがすがしい笑顔やったなあ。女ってこえ~~。 【ケンジ】さん [DVD(邦画)] 7点(2007-02-13 23:42:33) |
★2.山田洋次監督には珍しい松本清張原作によるサスペンス映画。果たしてどんな作品なのだろうと興味深々で見たのだが、見ごたえ充分な仕上がりでとても面白かった。山田監督がてがけた作品とは思えないほどにタッチがクールで乾いていてこれまで見てきた「男はつらいよ」以前の山田作品の中ではいちばん新鮮に感じた。また主演の倍賞千恵子といえばなんといってもさくらのイメージが強く、復讐に燃える悪女役というのは見ていて違和感があるのではと思っていたが、実に見事に演じきっていて素晴らしかった。それから全体的に暗くシリアスな物語の中にあって三崎千恵子が登場するシーンは「男はつらいよ」シリーズを先に見ているとつい微笑ましくなってしまう。 【イニシャルK】さん [ビデオ(邦画)] 8点(2006-05-25 15:45:41) |
1.《ネタバレ》 イニシャルKさん、すいません。お先に書かせてもらいます。山田洋次監督による何とも残酷であり、人間の持っている恐ろしさ、やるせなさとでも言うべきか?裏切り、裏切られた者の悲しさ、やるせない気持ちというものをモノクロの画面から漂う無情感のある映像美で見せ、無実の兄をお金の為に救わなかった弁護士に対する一人の女性の恨みというものを見事に描いている。脚本が何とあの橋本忍だけあって、見事なまでに計算された仕上がりになっていて感心させられました。倍賞千恵子のこんな恐ろしい演技、冷たい態度を初めて見ました。 【青観】さん [DVD(邦画)] 8点(2006-04-08 18:27:19) |