10.《ネタバレ》 正直言ってロドリゲスは名前だけで才に欠ける男ではないかと思っていたが、大きな間違いだったようだ。原作は未見で、どういう内容の映画かも全く知らずに鑑賞したが、徹底したハードボイルドの世界と切ないラブストーリーが見事にマッチしており、さらにセンスある世界観がこのハードボイルドさとラブストーリーをより高次元のものにしている。この見事な世界にたっぷりと酔いしれた。
また、魅力とクセのある役者がそれぞれのキャラクターを見事に演じきっている。恐らく協同監督に原作者フランクミラーがいるためだろう。原作者がキャラクターの本質を徹底的に役者に仕込んだものと思われる。原作者を協同監督にできたのもこの映画の高評価の理由だろう。
また、この世界はバイオレンス溢れる罪深き街を描いているが、このバイオレンスさが全く下品に感じないのも良かった。これは恐らくコミック的な良さ(マーブは何度轢かれても死なない等)を活かしているからではないか。コミック的なものがこの世界を覆っているため、我々の世界とは違う別次元の世界と感じられるからグロさや下品さをあまり感じないのではないか。
【以下完全なネタばれ】
この映画は、ハーディガン(ウィリス)とマーヴ(ローク)とドワイト(オーウェン)の三人の男達(と女達)のストーリーであるが、それぞれのストーリーに深い意味を感じる。
自分を見失うことなく8年を耐え得ることができたハーディガンは、自分を生かしてくれた女を生かすために死んでいった。また、一晩限りでも女の温もりや愛を感じさせてくれた天使の復讐のためにマーヴは死んでいった。
自分を生かしてくれるのも女であり、自分を死なすのも女である。男というものは、女のために生きも死ぬもするという哲学が、この映画に一本筋を通している。
また、愛する女を守るために戦う男ドワイトのストーリーには、女のために男は必死にもなるが、女自身も守られるだけではなく、戦う強さも持ち合わせているということを感じさせた。この主演三人も素晴らしいキャラクターだったが、脇役のイエローバスタードとケビンも女と間違った接し方しかできない悲しいキャラクターではないだろうか。また、男をこうも動かす女の魅力を、ナンシー、ゴールディ、ルシール、ゲイル、ベッキー等々が存分に示してくれた。どう考えても美しくないデボン青木でさえ、魅力を感じてしまうのもこの映画の魔力だろう。