3.《ネタバレ》 本作によりアカデミー賞主演男優賞を獲得しているが、「どうせ功労的なものだろう」とそれほど期待はしていなかった。
しかし、本作を観れば、決して功労的なものではなくて、100%実力で勝ち取ったものだと分かる。
架空のキャラクターを演じているというよりも、そういうシンガーが存在しているとしか思えないほどナチュラルな演技をみせている。
「アイアンマン」でロバート・ダウニーJr.と戦った人とは思えない。
本作で共演しているコリン・ファレルに同情してしまうほどだ。
コリン・ファレルも名優だとは思うが、ジェフ・ブリジッスに比べれば、まだまだ“格”が違うと感じさせる。
キャリアや熟練度はダテではないようだ。
本作は劇的なストーリーが存在する作品ではないが、ジェフ・ブリッジスの演技によって映画が引き締まり、緊張感溢れる作品にも仕上がっている。
監督はジェフ・ブリッジスの良さを最大限に引き出したようだ。
映画らしい演出や展開がない点は物足りないと感じるかもしれないが、非常にナチュラルな仕上がりともなっている。
本作のストーリー展開ならば、劇的な展開を設けて、過剰な“感動”を盛り立てたりすることもできただろうが、監督は全体的に“落ち着いた”仕上がりを目指したようだ。
ジェフ・ブリジッスの演技を踏まえれば、本作のようなナチュラルな演出が向いていると思う。
現実の大人の男と女の関係はあのようにドライであっさりとしたものであることは、分かる人には分かるだろう。
テーマには“深さ”も感じられる。
過去の栄光に逃げ、酒に逃げ、近寄って来る女に逃げ、大成功した弟子からも逃げて、“現実”から逃げまくっている。
その結果、彼は“全て”を失っている。
息子を失い、愛する者を失い、希望を失い、未来を失い、何もかもを失っている。
全てを失って、大切なものに気付いたときには既に手遅れなのかもしれない。
しかし、大切なものを失っても、人生はそれでも続いていく。
“自分”に向き合い、“現実”に向き合い、自分に残された“何か”にすがって、人は“再生”していくのかもしれないと感じさせる深みのある作品だ。
感動とはやや異なるが、少し前向きになれる作品ともいえる。
“カントリーミュージック”についてはよく分からないが、ジェフ・ブリッジスとコリン・ファレルが普通に聴けるプロ並の歌を披露している。
このような点も評価したいところ。