5.《ネタバレ》 ここに来て今までのどんな映画よりもアレンらしい王道の映画が出てきた!高IQだがいけ好かない偏屈爺さんと無邪気なピチピチギャル(死語)のラブストーリーを作って嫌味にならないのはアレンくらい。
この映画がアレン映画の中でも特に王道だと感じるのは、自由至上主義的なアレンの信条がここ最近で最も端的に現れているから。ギャルの母は一妻多夫の共同生活を始めるし、父はゲイに目覚める。徹底的に保守的で一神教的な価値観を馬鹿にし、嫌悪している。まさに「Whatever works!」(何でもあり!とはうまい訳だ)なカオス状況でラストを迎えるのだが、そういう世界こそ理想の世界だというアレンの強い思いが伝わってくる。何が正しいかなんて分からない!何をしたって、彼らが楽しければそれでいいじゃないか!
ただし、同時におそろしく厭世的なアレンの一面が垣間見えるのもこの映画が彼の作品の中でも特に優れている理由のひとつだろう。根本的には彼は人生を悲劇だと見ているのではないか?例えば、アレンの分身である主人公はパニック障害で暗闇恐怖症という設定だし、自殺未遂の過去もある。彼には現世は苦しみでしかないのだろう。頭が鋭すぎて周りが馬鹿に見えてしまう上に頑固であるがゆえに、色んな人と衝突し、変人と呼ばれ、結局愛想をつかされてしまう。暇つぶしにチェスを教えてもいらいらしてしまう。でも、彼はギャルと偶然出会い、その愛に触れ、見えにくいが少しずつ変わっていく。その様子が僕を感動させるのだ。アレンが持っている「おもしろきこともなき世をおもしろく」の精神が僕の心を癒し、明日への活力を与えてくれるのだ。僕ももう少しがんばってみようと思えるのだ。
ただし、一緒に観た友達の評価は最低で、「あんなクソ爺、早くしねばいいとしか思わなかった。途中で寝た」と傑作なことを言っていた。確かにいけ好かないクソ爺であることはまったく否定しないが、だからこそ彼が少しずつギャルに惹かれていくところが面白いのだし、何はともあれ彼には皮肉の才がある。そんな堅いこというなよ、と彼に言ったが、同時にこれは絶対に分かり合えないなとも感じた。アレンの作品は嫌な奴か天使にしか理解できない。
最後に、ギャル役のエヴァン・レイチェル・ウッドが最高だった!観客を元気にするいい演技だった!