10.《ネタバレ》 2年前に作品情報を新規登録しておきながら、ようやく重い腰を上げてレビューすることになった。
邦題を見れば白人のスポーツだったテニスの歴史に風穴を開け、
アメリカンドリームを掴んだウィリアムズ姉妹のドラマとして見ると淡々としすぎて物足りなさを感じる。
ただ、原題の"KING RICHARD"、つまり姉妹を育てた"暴君リチャード"の物語として
成功に至るまでのある種の歪みが本作の主題だろう。
姉妹が成功するのは既に分かっている。
それまでは彼の独り善がりで妄執に近い態度に誰もが関わりたくないと思ったはずだ。
常に綱渡りで彼のようなプランを作っても99%は成功しないだろう。
ただ、娘たちが貧困とドラッグに墜ちていく負の連鎖を断ち切るためであり、
日本以上に格差も差別も大きいアメリカの病みがある。
格差是正を訴えるより、自己責任で力づくで這い上がるしかなかった時代。
オファーを持ちかけられても安易に契約しない、性悪説で誰も信用できないのは弱肉強食のアメリカならでは。
時代を、人生を変えるには常に"正しい狂気"が必要だった。
その"正しい狂気"と言っても、最後は謙虚さが、聞く力が必要だ。
「試合に出たい」と練習し続けていたビーナスの声をついにリチャードは受け入れ、
どんな結末だろうとビーナスは試合に負けても勝負に勝った。
目論見通りなら、今までゲットーに生きていた黒人たちに光を与えたという意味で大きな一歩とも言える。
家父長制等、今でなら問題だらけの価値観に文句はあるかもしれないが、結果的に歴史を変えたのは事実だ。
ウィル・スミスはアカデミー賞授賞式でのひと悶着はあれど彼以外に考えられなかった。
ただ、彼のキャリアでのベストではなく、将来、より相応しい映画、役柄はあったと思う。