★1.邦題の「コンフィデンスマン」とは詐欺師の意味なのですが、さらに副題でも「ある詐欺師の男」と謳っており、えらくクドイ邦題だなぁと感じました。これだけ投げやりな邦題からも察しが付く通りさほど金のかかっていない作品であり、アメリカではDVDスルーだったという不遇ぶりからも期待値の上がらない中での鑑賞となったのですが、意外にもこれが犯罪ドラマの掘り出し物でした。映画とは自分の目で見るまではわからないものです。なお、原題の”The Samaritan”とは新約聖書の「ルカによる福音書」でイエス・キリストが語ったとされる「善きサマリア人」の話に由来し、詐欺師を善意の人として信用させることでターゲットから金を巻き上げようとするクライマックスの信用詐欺と、ある人に対して無償の善意を注ごうとする主人公の姿がかけられたものだと考えられます。 サミュエル・L・ジャクソンが演じるのは長期刑を終えて娑婆に出てきた元詐欺師。服役により失った時間があまりに長く「犯罪はもう懲り懲り」と更生を誓っているものの、かつて一流の詐欺師として通っていた逸材を裏社会が容易に手放さないことはこの手の映画の常であり、あの手この手の懐柔や脅迫により主人公は新たな犯罪計画に巻き込まれていきます。重厚な枯れを見せるサミュエルがとにかくかっこいいし、主人公が過去に犯した罪については具体的に言及されないながらも、サミュエルの存在感により「かつて大物犯罪者だった男」にきっちり見えるのだから大したものです。 脚本はコンパクトながらも緻密に練られています。この手の映画ではサプライズ優先で主人公がバカだと観客は冷めるものですが、その点本作の主人公は疑うべきものをちゃんと疑ってかかるため、観客はストレスフリーで鑑賞することができます。また、観客に与えられる情報は常に適量で維持されており、単純すぎず複雑すぎず丁度いいサジ加減で見やすい作品にもなっています。途中には適度なサプライズがあり、クライマックスにはハラハラドキドキさせられ、熱い男のドラマもありで、90分程度のVシネとは思えないほど充実した作品でした。たまにこういう掘り出し物に出会えるから、B級映画漁りはやめられないのです。 【ザ・チャンバラ】さん [インターネット(字幕)] 8点(2016-10-12 13:15:56) |