207.《ネタバレ》 「友人や困っている人を助けましょう」「自分の命を大切にしましょう」とかなり道徳的すぎるところもあるが、さすがに映画史に残る素晴らしい傑作といえる作品だ。
最近の映画のように、あえて難解にしてこねくり回すよりも、ストレートにメッセージを伝えており、非常に分かりやすい。分かりやすい単純なハッピーエンドだからこそ、多くの人の共感を得られやすいのではないか。現代の映画にはない“良さ”を感じられる作品だ。
また、ジョージがそれほど完全な善人というわけでもないのも気に入った。
彼には、自分の夢はあるが、夢が叶わない苛立ちやフラストレーションを常に抱えているのがよく分かる。
困難にぶち当たったときには、子どもや子どもの先生に八つ当たりしたり、物に自分の苛立ちをぶつけたりもする。
ときには、金儲けの誘惑にも負けそうにもなる。
聖人君子のような、現実にはいないだろうという完全なキャラクターではなく、欠点を抱えた、より現実的なキャラクターとしてジョージは存在している。
ジョージは架空の存在というよりも、自分自身の分身のように感じられるので、より共感を覚えやすくなっているのではないか。
そして、天使の存在も意外といい効果を発揮していると思う。
たいていの人間ならば、「人生は過酷なものだ」と分かっているはずだ。
「人生に奇跡など起きる訳がない」とも知っている。
しかし、天使が登場することによって、本作にファンタジックさの色合いが濃くなる。厳しい現実世界ともやや異なる世界であるとイメージ付けることによって、奇跡が起きても、すんなりと受け入れることができるようになっているのではないか。
そして、ファンタジックな世界ではあるものの、相反する現実的な色合いもまた濃いので、身近にも感じることができる。
虚構と現実のバランスが上手く取れた作品である。
現実世界を序盤に描き込み、天使の登場が終盤までズレこんだのも、功を奏している。
天使も全く天使らしくないのも素晴らしいアイディアだ。
全て計算で演出しているのならば、フランク・キャプラは天才といえるだろう。
観る人によっては、甘すぎ、ご都合主義的だと感じるかもしれないが、たとえ夢が叶わなくても、たとえ自分の人生が思い描いたものでなくても、たとえ平凡な人生でも、「自分の人生もそれほど悪くはないのかな」という錯覚に陥らせてくれるパワーのある映画と感じさせる。