20.《ネタバレ》 1970年の映画「栄光への賭け」で、気になる俳優の一人になったシャンソン歌手としてあまりにも有名なシャルル・アズナブール。
彼の本格的な映画出演は、歌手デビューよりずっと後ですが、その代表作とも言えるのが、ヌーヴェルバーグの代表監督フランソワ・トリュフォーの「ピアニストを撃て」だと思います。
この映画でのアズナブールは、歌手が片手間に映画に出演したというのとは全く違って、根っからのプロの役者という印象だ。
頭で考えるより先に、生理的な次元で役を取り込んでいるように見えるのです。
だからこそ逆に彼は、シャンソンという、ある意味、物語性の強い音楽のジャンルで、あれだけの成功を成し遂げられたとも言えるだろう。
下がった太い眉、丸く肉付きの良い鼻、厚目の唇、そしてあまり高くない身長。そして何よりも、その二重の大きな目を瞬く度に目につく、男にしては長すぎる睫毛だ。
極端に言えば、可愛げのある男性的なものからは程遠いソフトなイメージに、「ピアニストを撃て」の気弱な主人公の役は、まさにはまり役だと思います。
~カフェでピアノを弾くシャルリは、かつて世界的なピアニストとして成功した男だった。それが妻と興業主との駆け引きの結果だと知って、妻を自殺に追いやり、身を隠したのだ。そんな気弱な彼に好意を抱く娘のレナ。二人は、彼の兄が起こした事件に巻き込まれていく。レナは銃弾に倒れ、彼はまた一人、ピアノを弾き続けるのだった-----~
この映画は、アメリカのギャング小説が原作とは思えない作品だ。
フランス的なエスプリの中に、恋も事件も死も、淡々と、しかしリズミカルに弾き語られた印象だ。
ピアノを弾くことしか能がないと、自身の現実生活の気弱さを諦めているシャルリは、妻を自殺に追いやった辛い過去から、素晴らしい才能を伸ばそうという野心さえ捨てたのだ。
傷ついた物静かな男を、ぴったりの雰囲気で演じるアズナブールの歌う、これは一つのシャンソンなのかもしれない。
それにしても、この主人公のシャルリは、臆病さゆえに、愛する女性に、気持ちをうまく伝えることの出来ない男-----。
しかし、彼の面白さというのは、それを地で演じているように自然に見せながら、その気弱さの裏にある、音楽家としての才能との二重性を微妙に演じているところだ。
音楽に浸る時にのみ、気弱な男が見せる、芸術への強い執着。その神経質なまでの思い入れは、臆病さの裏返しではあるが、芸術に心酔する、芸術家独特の顏なのだ。
外見が非常に柔らかなために、それと相反するものを秘める役で、彼は独特の雰囲気を演じきっていると思います。