7.《ネタバレ》 岐阜県のご当地映画であり、「行こまいか」「だちかんで」「あらけない」といった方言の使用が印象的かつ適度である。また美形の若手女優にお歯黒をさせるといったリアリティ重視の姿勢も見える。
お手軽な映画として作ろうとしたのなら、支配者は全て悪人、被支配者は全て善人にして対立構造を明確にするだろうが、この映画では被支配者の内部にまた身分差があり(「水呑は黙ってろ」という台詞もあった)、その上「立ちもん」「寝もん」の対立もあって全く一枚岩ではない。そのような史実を忠実に描写しようとする姿勢には非常に好感が持てる。
ちなみに検見取りの意味に関しては、役人の匙加減が利くという面もあるだろうが、それより終盤で町奉行が「切添田畑これあり…」と言っていたように、これまで農家が苦労して拡大してきた農地を新たに課税対象にすることへの反発が強かったと思われる。
ところで宣伝文句では「歴史は民が動かす」ことを強調していたが、しかし民衆にせよ支配層にせよ、その時々の経済社会動向を背景にしなければどんな動きも成功しないだろうと思われる。この映画の農民が歴史を動かしたというよりも、世の中の流れの先頭を切って動いたことで、それを契機に幕府も動いたというくらいの見方が妥当なのではないか。
それより個人的にこの映画から感じた最大のことは、どんな時代でもどんなところにも“義の心”を持った人がいるということだった。現代なら“義”などというと中高年からは毛嫌いまたは冷笑されるのだろうが、自分を犠牲にしても多くの人のために行動すること自体が否定されていいはずもない。当時の民衆運動では主導者が本当に生命を失う覚悟が必要だったのは現代と明らかに事情が違うのであり、地元でもこの人々を「義民」と表現していたようだが、自分としてもまずはそういった人々を顕彰する映画と捉えたい。
もっとも、主人公の可愛い奥さんの顔など見ていると、何もこの男がそこまでしなくてもという気になって、その立派な志を手放しで賞賛するのもつらくなるというのが正直なところである。
以上、世間ではあまり面白くない映画と取られているようだが、制作に協力した地元の人々への敬意も含め、自分としては最大限の好意的な評価をしておきたい。
なお余談として、劇中で何気にうちの地元の殿様(のご先祖)が出ていたが、特に悪役ではなかったようで幸いだった。