6.《ネタバレ》 すごい演技達者な女優さんと子役さんでした。
特に子役がすごく上手で、「乱暴で不安定で育てにくい子」になりきっているので、観客はみな「このガキ、うぜえ」と思ったのではないでしょうか。
そうやって「育てにくい子を虐待しかねない親の気持ち」がわかるようにしておいて、母親がどんどんおかしくなっていく描写を入れていきます。
ババドックに取り込まれ、愛していたはずの子に暴言を吐き、放置し、最後には存在を消そうとすらしようとします。
もし単純に虐待シーンを描いただけだったら、「虐待母か。最低だな」と思われて終わりですが、最初から丁寧に親子関係とその変化を描くことで、観客の気持ちをちゃんと引っ張っていきます。
そして、『ババドック』というのは、母親の心の影であり弱さであったようです。
『ババドック』の絵本を作ったのも母親自身です。いい母親でいようと努力し続け、本音(つらい、子どもが鬱陶しい、憎い、逃げたい)を抑圧し続けた結果、ババドックが生まれたのでしょう。
なぜそこまで子どもへの強い愛憎を持つに至ったかは、ラストでわかります。
子どもの誕生日と夫の命日が同じ日であること。夫は、出産した病院へ車を走らせている途中で事故にあい、死んだこと。夫への愛情と喪失が子どもへの愛情と憎しみを産んだのは、無理ない事と言えます。
一面的に「虐待は悪だ」「悪い母親は最低だ」と人間を断罪するのではなく、丁寧に子を虐待する母親の心を描いた作品ともいえますね。
どんな母親でも本当はいい母親でありたいのだ、と。自分の心の弱さと闘う母親もひどく苦しんでいるのだ、という事をちゃんと伝えようとしています。
そして、人の心の弱さは絶対に消えません。
それがわかっているから、ラストで母親は、弱さである『ババドック』を飼いならす努力をしているのです。
大人は大変ですね。
けれど、子どもは魔法が使えます。どんなタネなのかまったくわからないミラクルを持っていて、母親を幸せにしてくれるのです。それが最後の手品の場面なんだと思います。
サイコ・サスペンスかと思ってたら途中からホラーになって、「キャーこわい」と思ってたら、ラストですごく深いテーマだと気が付かされました。よかったです。