29.前日に原作小説を読み終えたばかりだった。
原作を読み終えた直後に映画作品を観るのは、ハードルがあまりに上がってしまってアンフェアかなとも思ったけれど、タイミング良く朝から冷たい雨が降り続いていたので、鑑賞に至った。
結論から言おうと、非常に良い映画に仕上がっていると思う。予想外に良い出来映えだった。
まず何よりもキャスティングが良かったと思う。
主人公の死神「千葉」役に金城武を起用したことは、間違いなかった。
原作者の伊坂幸太郎の「指名」だったらしいが、ほんの少し“片言”な感じに聞こえる台詞回しや、他の日本人俳優にはない浮世離れした存在感が、死神役に相応しく、「千葉」そのものだった。
ちょっとした風貌の変化で、様々な年代の異なったキャラクターを表現する様には、単純な演技力ではないアジアを代表する俳優としての表現力が見られたと思う。
物語を締める老女を演じた富司純子も素晴らしく、根本的な美しさと芯の強さを兼ね備えた老女役において、今、彼女以上に映画の画面に映える女優は居ないと思う。
このキャスティングの妙だけでも、充分に観る価値のある映画だったと思うが、更に映画化にあたり脚色の巧さも光っていた。
原作小説は6編の短編からなる連作小説だが、その内の3編を選択し、とても巧く一つの映画作品の脚本として繋ぎ合わせていた。
映像化にあたって改修が不可欠な台詞回しも、物語の本質を損なうことなくユニークに繰り広げられており、それぞれのキャラクター像がある部分においては深まっていたと思う。
各話の連なり方だけを見れば、この脚色の方が映画的には相応しかったとさえ感じた。
良い小説の映像化においては、どうしても必要不可欠な脚色行為によって、大いにその世界観が損なわれることは多々ある。
でも、今作においては、明らかな変更点を目の当たりにしつつも、すんなりと受け入れられ、原作とは違う映画ならではの感動を生んでいた。
稀ではあるが、とても幸福な小説の映画化だったと思う。
犬の安っぽい字幕演出がなければもっと良かったのだけれど……。