2.《ネタバレ》 何でも、どこでも、いっぺんに。
本題を象徴するが如く、
マルチバース(並行世界の一種)に、下ネタ込みのナンセンスギャグに、カンフーアクションと、
おおよそオスカー好みとは対極の要素ばかりで数年前なら候補にすらならなかっただろう。
圧倒的情報量のカオス状態でそれでも空中分解しなかったのは、
現実パートを担保にしていることが大きい(これが正しい世界線とは限らないが)。
つまり、国税庁で暴れ回る世界線はエヴリンのギリギリの精神状態を表した妄想で、
アルファ世界線もアクションスター世界線も盲目のシンガー世界線もそれに付随していく。
「こんなはずではなかった、こんな未来もあったのでは」という人生の問いかけ。
反対にマルチバースで多くのエヴリンを殺し続けている娘ジョイは、
自分らしく生きることを認められていないようで希死念慮に近い虚無感を抱えている。
エヴリンは頭に溜まったキャッシュを吐き出すように倒れ、現実では店の窓を壊す。
そこからバラバラになりかけた夫と娘と父との関係を見つめ直していく。
どんな自分だって、どんな愛しい相手だって、どんな人生だって肯定していく。
スケールが大きいようでどこかこじんまりしている辺り、
どこにも飛び出せない社会の閉塞感を表しているようだ。
袋小路に迷い込んだ人には響くかもしれない。
アカデミー賞の前哨戦で圧倒しているが非常に奇妙な作風で確実に観る人を選ぶ。
SF映画が一度も作品賞を取れていない現状なので今年も無理だと思うし、受賞が想像できない。
【3/13追記】
なんと作品賞をはじめ、主要部門を総なめしてしまった。
アカデミー賞効果で多くの観客が詰め掛けるが大炎上は必須だろう。
ただ、あまりの突き抜け加減からカルトムービーとして記憶に残るのは間違いない。