82.《ネタバレ》 理屈抜きに面白いので、この時代の日本映画に対して、私の様な負のイメージを持っている人にも、是非観てもらいたい作品である。
気になったのがラストシーン。
本作の舞台は、高度成長期をイメージさせる団地の一室。
その団地の一室での、退屈極まりない昼下がりが本作のラストシーンなのだ。
本作の魅力の一つに“シュールさ”があると思うが、本作のラストシーンは、その“シュールさ”と不気味さ、そして不可解さ、そして疑問、奇抜なカメラワーク等、いろんな要素が複雑に組み合わさって、何とも言えない余韻を残す素晴らしいラストシーンとなっている。
昼下がり、不気味に静まりかえる団地の一室。
由紀さおり演じる母親は、子供たちを呼ぶ。
しかし返事がない。
部屋に子供たちの様子を見にいくと、そこで子供たちは死んだ様に深く眠っている。
いくら起こしても起きないので、仕方なく母親は台所のテーブルに戻る。
しかし、さっきからどうも外がうるさい。
どうやらヘリコプターが何機も団地の上空を飛んでいる模様。
これがとてつもなくうるさい。
不気味にうるさい。
静か過ぎる団地の一室と、その上空をけたたましい騒音をたてて飛ぶヘリコプター。
“喧騒と静けさ”
相反する二つのものが、複雑に絡み合わさり、不思議でいて、それとない不安を醸し出す。
憂鬱なくらいに静かで退屈な団地の昼下がりに、必要以上にうるさいヘリコプターの騒音。
これは一体、何を意味するのか?
結局、私にそれは分からなかったが、とにかくこの“喧騒と静けさ”は、観ている私を“何となく不安”にさせた。
言葉で説明すると何とも抽象的で分かりづらい表現となってしまったが、実際に本作を鑑賞された方の中で、私の言っていることを何となくでも理解してくれる方がいたなら、それで満足である。
ラストシーンの最後の最後、それまで平面的に空間を捉えていたカメラが、突如、上方に動き、団地の一室を上から三次元的に捉える。
そこでエンドロール。
何とも素晴らしい終り方ではないか。
素晴らしいんだけど、この終り方、どこかで観たことがあるような・・・
そうそう、溝口健二だ。
具体的には『残菊物語』のラストシーンであり、また、『雪夫人絵図』のラストシーンである。