★1.《ネタバレ》 日本映画史に名を残す名匠伊藤大輔の佳作として、「王将」(48年)ほどではないが印象深い本作 。とはいえ同年に公開された『同じ槍持ちの下男・ラストの殺陣』を主題とする内田吐夢の「血槍富士」の評価の方が高いし、実際この映画を鑑賞するとそういった世評もむべなるかな、という感はある。純朴な下男を演じる田崎潤が嵯峨三智子演じるお市に惚れられるという展開は説得力に欠け(それこそ片岡千恵蔵ならともかく)、なによりも片山明彦演じる主人新太郎が下男の身柄を敵に引き渡すか否か悩むその心情をいちいちモノローグで説明している、という点は伊藤大輔らしからぬ、キレ味悪い表現として点数は厳しくなってしまう。但私がこの作品をなぜレビュー登録したか=ラスト15分の展開+ヒロイン嵯峨三智子の存在感によるもの。主人に裏切られ(字の読めない訥平に「身柄を引き渡すので好きにしろ」と書いた手紙をもたせ、果し合いの場で敵一団に届けさせる、というのはひどい)絶望した訥平が天に向かって叫び、ボロボロになりながら敵に立ち向かうも相手に何も害を与えることなく、ただなます切りにあって死んでいくその情景に監督伊藤がなぜこの作品をリメイクしたのか・強く訴えたい程の「ほとばしる感情」が見える分、酒蔵で泥まみれになって暴れる千恵蔵よりもインパクトは強い。また果し合いの現場に急行し決闘を諌めるも巻き添えの刃をくらい、訥平の手を取って死んでいくヒロイン。後年伊藤大輔は「薄桜記(58年)」脚本で雷蔵&真城千都世に同様の死に様を見せているがその悲劇度で断然こちらの方が印象深い。加えてこの時19歳の嵯峨三智子の艶っぽさ。着物の襟足から覗く強烈なエロティシズムというのか…とにかくこれは山田五十鈴のDNAですな。脇役(小沢栄・浦部粂子・三井弘次・丹波哲郎)の演技も好印象。 【Nbu2】さん [映画館(邦画)] 7点(2014-04-23 13:52:35) |