17.今まで家に閉じこもっていた田舎の普通の主婦が、訴訟を起こしたことで世界の手応えを知って生き生きする話。村落共同体のなかでナアナアで済ませていたことから、自己の確立を打ち立てる、という前向きなストーリー、とまずとれる。でも別に、互いの顔を識別し合っていられた村の中に、国家の法の論理が侵入してきて共同体内の「いい感じ」が次第に壊れていく物語、ともとれる。裁判中毒になった主婦によって村が破壊されていく。おそらくこの映画の面白さは、その二面が描かれていることにあるわけで、近代が入り込んできた村社会の問題は、現代にまで続いているんだろう(高速鉄道の事故でも、もう中国人はナアナアでは黙っていなくなった)。村の共同体の拘束からの自由と、その外側に広がって待ち構えているもっと大きなものの気配。最初は「一言謝ってほしい」だったものが、だんだんと拡大していく展開に、どことなく民話の味わいがある。巡査が自分で買った土産を持って収めようとするのがおかしい。 【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 7点(2011-09-24 10:01:26) |
16.《ネタバレ》 人それぞれには意地とプライドというものがある。 それに強いこだわり持つ人にとっては、曖昧な結論など受容できるはずもない。 夫にケガを負わされた妻は、最初は夫のために抗議活動をしていたとはいえ、いつの間にか自分自身のこだわりとしての活動にエスカレートしていった。 本作は、役人の権力に対して人民がどれだけ対抗し得るか、それを一つのテーマにしている。 民主主義ではなく社会主義としての中国内において、どれだけ人民ひとりひとりの権利が尊重されるのか。 そして、それは尊重されるべきものであるとして、監督のチャン・イーモウは、観る者に訴えたかったに違いない。 人間というものは一度感情的になってしまうと、敵も味方もなく言動を起こしてしまいがちであり、本来仲間である村長や村人たちを巻き込んでいってしまう。 そんな暴走ぶりと、終盤の難産騒ぎで村長がこの妻の為に職務を全うするという下りが、見事に平行して描かれており、実に人情味のある豊かで緻密な作品に仕上がっている。 組織や集団における仲間意識の重要性。 だが、それはちょっとしたことから亀裂が生じ、行き違いが生じてしまう。 そんな人間の絆の重要性と脆さ、そして逆に結束力の強さをも提示してみせた本作は、チャン・イーモウの実力と魅力が存分に発揮されている作品だった。 【にじばぶ】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2011-08-06 13:01:54) |
★15.《ネタバレ》 最近では妙にオリエンタルチックな作品を連発して私の中では評価がグッドウィルなみに落ちているチャン・イーモウだけどこの頃は中国の大地で「ど根性」で生きている人間(特にコン・リーを主役とした)を描き出して見ごたえのある映画を連発していた。で私にとって彼の最高傑作はこれ。村長に股間を蹴られた夫の為に身重の体を振り振り動き回るコン・リーのキャリアはここで頂点に達したのではないか、という位の存在感である。(ここでいう存在感とは目立つ、とかではなく中国の農民に完全に同化している点で役者を越えたものという意味)映画館のスクリーンで私はニヤニヤしっぱなし、楽しい時を過ごさしていただきましたよ。村長も実は良いやつで主人公の出産の際には率先して病院まで担ぎ運ぶ指示をして手伝っているのがまた良い。しかし現地に今いる私の実感だが、こっちのおばちゃんは皆バイタリティありますな~。たいしたものだ。(ちなみにこの映画の話が理解できないという方がいるのは当然。中国の人がもつ「面子」の重みが日本人にはわかりづらいからだと私は考えます。) 【Nbu2】さん [映画館(字幕)] 8点(2007-07-05 20:03:39) |
14.《ネタバレ》 チャン・イーモウ監督、最近じゃアクションものを撮ったりしてるけどやはりこの監督はこういう作品の方が絶対に良い。まずは何と言ってもこの作品に出てくる人達がみんな、人間的で良い。夫が村長に大事な所を蹴飛ばされたことを知って、乗り込むコン・リーの一人の女としてのあり方、夫の為にと村長に対して、一人、訴える姿はかっこ良い。そんなコン・リーの着ている服の色がこれまた赤をモチーフとして常に描き続けている監督ならではのものを感じる。私が考えるにこの監督が常に強調している赤という色は人間の血の色だと思うわけです。だからこそ赤を大切に描き続ける監督の人間的な情熱と温かさのようなものをユーモアを感じながら楽しむことが出来たこの作品、私は嫌いにはなれないし、それに作品全体を包み込む映像の美しさ、中国の大自然、これまた中国映画ならではの物を感じられずにはいられなかった。 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-09-16 20:45:17) |
13.一言誤れば済む事が、村長の立場と筋を通して欲しいオンナの意地が招く誰も望んじゃいない結末。学が無い事が怖いのか、腐敗し癒着まみれの役人・官僚組織が怖いのか、オンナの執念が怖いのか。赤い唐辛子の束がチャンイーモウ。 【亜流派 十五郎】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-03 18:29:34) |
12.《ネタバレ》 金玉蹴られて頭下げろ。いや下げないを軸に頑固者の維持の張り合いみたいな事がずっと続く内容ですが、ラストも含め非常に興味深かった。よく子供の頃に「悪い事をしたらごめんなさいでしょ」と親に言われたのを思い出した。大人になると変な面子が邪魔して素直になれなくなる。旦那の面子を保った女と、村長としての面子を保った男の壮絶な意地の張り合いになる。上級裁判所まで裁判は進むが、難産を助けてくれた村長との間に仲直りムードが進む。しかしそこを先般起こした近代法の概念から「傷害罪」で村長が連れていかれるという皮肉なしめ方をする。何でもかんでも近代化するより、元来人と人が持っている繋がりを第1に考えれば、一時の感情で理解しきっていなかった告訴なぞしなかったはず。そこらへんの何とも言い難い切なさがある。あれだけ美人のコン・リーが、一世一代のビフォーアフターならぬ「アフタービフォー」のブサイクぶりで見事だ。勿論演技も素晴らしい。チャン・イーモウは女優の見せ方が非常に上手いと思う。 |
11.相手の悪い部分しか見ないで行動すると、後で取り返しのつかない矛盾に陥ることがある、という、これは貴重な教訓映画です。手段と目的が適合しない行動をとることを戒める映画でもあります。私は、少なくとも途中からは、主人公の行動に全然ついていけませんでした。 【Olias】さん 3点(2005-02-22 02:22:02) |
10.ああ!!なんでこうなるの!!主人公のたまらない気持ちが伝わる。 本人にとっては大事な事柄も、結果から観ると些細な事柄だった。 ちょっと理不尽で納得できないので、公平な結論を期待したが、より理不尽で より納得の出来ない結果。世の中は悪意でなく、善意で満ちていても、結果として より苦しく、悲しい結果も有りうる・・・ 【ご自由さん】さん 7点(2005-02-14 11:54:01) |
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9.一人の農村主婦の頑なな行動を通して、当時の中国の近代化の現状を包括的に、そしてユーモラスに描いた佳作。一般的な国民の暮らし、一人っ子政策、先富論に引き裂かれた都市と農村、そして本作の僅か三年前、天安門で市民を武力弾圧した国とは思えない程の民主的法整備等が淡々と描かれていく。秋菊自身の物語の結末は少し皮肉なものでしたが、舞台となる中国の近代化自体に賛否の視線は無く、そのまま提示されていた様に感じました(詳しくないですケド)。既に10年以上前の作品となってしまいましたが、これは中国社会の勉強にもなると思います、7点献上。 【sayzin】さん 7点(2004-12-28 01:35:02) |
8.とにかくラーメンが食べたくなる作品。秋菊の裁判に望むものがわからない・・感情移入できない。 【かまるひ】さん 4点(2004-10-17 17:53:53) |
7.これはハマってしまいました。面白い!「よくぞこんな面白い映画作ったな」というよりは、「こういう映画を作ったら実は面白い、ということによくぞ気づいたな」と感心してしまいます。登場人物が役者と思えない。演技と思えない。その辺の人の会話をコッソリそのまま撮ってきたみたいな演出です。主人公の妊婦役にコン・リー、その彼女もここでは、口をポカンと開け、ガニマタでドタドタ歩く、その着膨れ姿、まるでドラえもんみたい(「田舎の人間をバカにしとんのかー」とお叱りの声もあるかもしれませんが)。さて、亭主の金的にナイスな蹴りを入れた村長を詫びさせるため、奔走する主人公。と言っても奔走という程のものではなく、話がこじれる度に、都会へと足を運び(このシーンのバックには懐かしさ溢れる音楽が)、都会へ行ったら行ったで、ちょっと不安になり、義妹としっかり手を握り合っている。この繰り返し。こういう構成をロンド形式と言うのでしょうか(?)。で最後に思わぬ展開を見せ、大団円、と思いきや、それまでの心地よさに待ったをかけるような、ハッとするラスト。一本とられました。 【鱗歌】さん 9点(2003-12-29 22:41:46) |
6.(大人同士で)謝ってすむなら、謝ればいい。人生は短い。謝る、謝らないで、時間を無駄にしない方がいい。 【sirou92】さん 1点(2003-12-11 20:08:37) |
5.まずこの映画をみて人目で驚くことは、村と都市の豊かさの違いでしょう。都市の豊かさがいっそう春菊の村の貧しさを際立たせているところが見事でした。 そしてそれが中国の中央集権社会の弊害を如実に物語っています。 あまりはっきり言葉に出して言うと、中国政府に干渉されるから、チャンイーモウの作品は、「映像で観客に語りかける技術」をいつも用いています。 この監督はときどき、中国の汚い部分を外国人に見世物にしていると悪口言われます。しかし中国を一番理解しているのはこの中国人監督だと思う。 【花守湖】さん 9点(2003-11-27 14:03:42) |
4.《ネタバレ》 張芸謀の「秋菊の物語」「あの子を探して」「初恋のきた道」の共通点は、無知な女主人公が恐るべき執念で自らの信念を貫く物語である。日本人にはなかなかいないタイプの人間像で、何よりも世間体など気にせずに行動するのがすばらしい。「あの子を探して」「初恋のきた道」の場合は自らの望みをかなえることができたが、「秋菊の物語」はどうだろうか?女主人公にとっては全く納得のいかない結末を迎えることになるのだ。 一般に現代では中国でも日本でも個人間の諍いは金で解決しようとするが、秋菊は村長が金を払っても、その尊大な態度が気にくわない。心から謝罪しないからである。秋菊が怒るのは当然だ。徹底的に抗戦するのも当然である。実際彼女が頑張ることで、村長は傷害罪で捕まることになったのだが、彼女にしてみれば単に村長に謝罪してほしかっただけなので全く不本意な結末なのである。しかも傷害罪で村長が拘留される前に、彼女の出産を村長が助けており、心情的には村長に感謝こそすれ憎しみは消えうせていた。なんという皮肉な運命だろう。しかし世の中はこんなものだとあきらめねばならない。何故なら傷害罪を働いたのは事実でそのためには罰せられなければならないからだ。これが社会のロジックで、この方がわかりやすい。出産は偶然の出来事であり、それで村長のいいところが見えてきたとしてもそれはそれ、これはこれである。人間にはいい面と悪い面が誰にだってあるのだ。秋菊が申し訳ないと村長に対し思うのであれば、これから村長や村長の家族を助けてやるしかない。これでいいのだ。秋菊は本当によくがんばった。 え?これがあのかわいいコン・リー?と思うほど、ふてぶてしくやぼったい山村の妊婦を好演している。一世一代の名演であろう。山村や町の風物もとてもよく描かれており、この映画を風物詩として見ても十分楽しめる。にぎやかな明るい家族、村の人々との交流がとても美しく描かれている。今から50年たてば中国の山村も大きく変わっていることだろう。そのときこの映画が映し出す人々の生活をきっと皆感動と郷愁の思いを抱いて見ることだろう。 【山田 明生】さん 8点(2003-11-24 18:26:11) |
3.うっ・・・皆さん、高評価なのに、申し訳ないです。こういう映画の味わい方とか楽しみ方が、まだいまいち分かってないのかもしれないです。山に籠って修行してきます。 【ぐるぐる】さん 5点(2003-11-21 18:38:07) |
【紅蓮天国】さん 8点(2003-10-12 23:17:54) |
1.全篇にわたる「笑い」のセンスの見事さ。これほど真面目に人を、社会を描きながら、いちいち笑わせられ度々胸をキュンとさせられる。例えば都市で秋菊が義妹と一瞬はぐれた後のシーンは心底胸を突かれる素晴らしさだ。 こんなに軽いタッチの作品なのに。 緻密な計算や構成力の果てに、まるで偶然が重なったかのような奇跡的な美しさをもった映画だ。 【るーす】さん 10点(2003-05-15 23:15:41) |