38.《ネタバレ》 序盤の時点で「あぁ、これは死後の世界か何かに迷い込んでいるんだな」と気が付かされる訳ですが、そんなネタバレ状態でも楽しめる一品でしたね。
七時半で車内の時計が全て止まっている件などは「つまり、その時刻で事故が起こった訳か」と推測させてくれるし「あの白い服の女性は誰?」(=事故の相手となった車の運転者)など、適度に謎も残してくれているので、一番大事なオチが分かっていても、細かい部分の答え合わせを行えて、退屈しないという形。
ラストにも分かり易く死神風の男が現れるし、日本で言うところの「怪談」映画だったのだなと納得して、モヤモヤを抱えずに観終わる事が出来ました。
とはいえ「怪談だから整合性とか気にしなくても良いんだよ」感が強かった辺りは、難点と言えそう。
登場人物の行動が不自然で、ちょっと感情移入し難いものがあったのですよね。
例えば、主人公のマリオンだけが車を降りて夜道に一人きりになる際に、彼氏も一緒に降りない理由が不可解だし、マリオンの弟が野外で唐突に自慰行為を始めるのも理解不能。
運転手である父親が飲酒したりなど、色々と道徳的、あるいは宗教的なメッセージが込められているのかも知れませんが、それらを読み解く楽しさよりも、置いてけぼりな気持ちの方が強かったです。
そもそも、隠されたテーマが云々と言い出したら「去年は高速道路を使ったので事故を起こさなかった。つまり、この映画には『皆も高速道路を使おう』というメッセージが込められているんだ」と言い張る事だって出来そうな感じなんですよね。
深読みしたら、作中の延々と続く道路同様に、キリが無さそう。
一家全滅ではなく、主人公だけは助かっているので、後味が悪いという訳ではないのですが「最高のおじいちゃんになる」という、もはや叶わぬ願いが書かれたメモが拾い上げられるシークエンスと、実は去年のクリスマスの時点で笑顔だったのは父親と娘だけ(しかも娘の方は作り笑いっぽくて、家族全員が違う方向を見ている)と明らかになる写真を映し出して終わる辺りには「悪趣味だなぁ……」とゲンナリ。
総合的には楽しめた時間の方が長くても、こんな具合にラストが好みでなかったりすると、評価が難しくなってしまいますね。
彼氏が「今夜プロポーズするつもり」と語った途端に、別の場所でマリオンが「彼に別れ話を告げる練習」をしている姿を映す演出は上手いと思ったし、中弛みしそうなところで「目に見えて狂い出す母親」という展開にして、観客の興味を維持させる辺りも、感心させられるものがあります。
「実は両親揃って不倫していた」なんて下世話な真実を明かしてくれるのも、作り手のサービス精神が伝わってきましたね。
観ると幸せな気持ちになれるという類の映画ではありませんが、平均以上の満足感は与えてもらったように思います。