2.《ネタバレ》 まず前半部分はユーモラスな展開が非常に楽しい。客観的にはかなり深刻な状況であり、一人でいれば荒れていたりするのが映像にも出ているわけだが、何より本人がカメラの前では完璧なアイドル顔をしてみせるので和まされる。人間だから笑ってばかりもいられないだろうし、舞台裏ではいろいろあるのだろうと察しながらも、あえて表の面を賞するのが現代アイドルを愛する作法なのだろうと思わされる。
所属事務所の同僚や先輩にしても本当に親身なのかは怪しいものだが、ここは本物の事務所の同僚・先輩が出ていることもあって馴れ合いの雰囲気があり、全てわかった上で楽しんで見る気にさせられる。また少し年の離れた親友も非常にいい味を出していた。
ところで本作では広い意味でのウソが問題にされているのだろうと思うが、少なくとも前半の面白さは、アイドルをめぐる虚構に関し見る側との暗黙の合意を前提にして成り立つものと思われる。それで個人的にはこの虚構部分が非常に楽しめたわけだが、終盤ではその虚構を受け入れられない実行犯が出て、これが時代錯誤的な勘違い男に見えていたわけである。
一方、これに代わってラストで示されたのはまた別種の欺瞞であり、劇中のディレクターによれば“隠すことはウソにならない”というタイプのものらしい。この事件の真相は最後までよくわからなかったが、しかし何やら所属事務所が関与していた節もあったので、もしかするとチェーンメール的な事象など初めから存在せず、死んだ実行犯も騙されていただけなのかも知れない。そうすると、最後に出ていたドキュメント制作者もマッチポンプ的に連動していたのではと疑われる。
そういった背景が最後まで明確にされないことで、ここでは底知れぬ恐ろしさが表現されていたと取ればいいのかも知れないが、しかし結局は“何だかよくわからない終わり方”という印象が強くなっていたのは残念なことである。
なお主人公のアイドル(現・麻生かな)は、ものすごく可愛い。それはまあその筋のプロだから当然ともいえるが、演技の方もなかなか頑張っていたようで劇中人物としても愛しく感じられた。結構ブラックなお話であるから、これが本当にこの人のプロモーションに役立ったのかどうか心配になるが(先輩タレントはまともに宣伝していたが)、少なくとも自分にとって好印象だったのは間違いない…走り回ってごくろうさま、なかなか面白かったです。