5.本作は原作から大胆な改編をしているところがチャレンジャブルです。
<小説>
上巻:①→②→③→④→⑤→⑥と物語の「前半」が展開する
下巻:⑥→⑤→④→③→②→①と物語の「後半」が展開する
<映画版>
①~⑥全てを同時進行で描く
と、構成が全く変わっているのです。
映画「メメント」を「普通の時系列になおしたらわかりやすい映画だろうなあ」と思った方が多いように、クラウドアトラスも6つの物語を順番に描けばシンプル極まりない映画になると思います。
しかし、普通に順番通りに物語を描いただけでは面白くありません。
そうした凡庸さを避け、大胆な実験(構成)をしただけでも、自分はこの映画を賛美したくなるのです。
ただしこの構成は諸刃の剣でもあります。
舞台と物語があっちへこっちへ飛ぶのではじめは混乱するでしょうし、「ぶつ切れ」な印象は否めません。
「観たかった物語が突如とぎれてしまう」「6つのも物語が一緒に展開されるので、ついて行くのが大変」と、もどかしさを感じる人もいるでしょう。
しかし、映画を観慣れている映画ファンには是非劇場で観てほしい作品です。
この映画は哲学的で、とてもテクニカルで、他の映画にはない魅力があります。
もうひとつ面白いのは、役者たちがそれぞれの物語で全く違うキャラクターを演じていることです。
トム・ハンクスやハル・ベリーは全ての物語で登場していますし、3つの時代に登場するペ・ドゥナも存在感抜群。その特殊メイクでの「なりきり」具合はファンなら必見です。
本作は残念ながら本国では興行的に失敗し、TIME誌の2012年の映画ワースト1位に選ばれると不遇の扱いを受けています。
しかし、ハマる人には最高の作品になる可能性があります。
ハリウッド大作とは思えないほど実験的な作品ですが、それを期待している人は是非劇場へ足を運んでみてください。
エンドロールがはじまってすぐにおまけがあるので、席を立たないほうがいいですよ。