1.“成し遂げたこと”の価値が大きいほど、その当人は感情の置き場所に戸惑うものかもしれない。
主人公一人が信じた「目的」を果たし終えた後、それまでと変わらずに広告を作り続ける彼の瞳が印象的だった。
独裁政権下のチリでようやく許された反対派CM放映の権利。
自らも国外追放を経て帰国した広告マンが、反対派に与し体制の転換を目論む。
事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、長きに渡り恐怖政治で支配を極めていた独裁政権に対峙する主人公が、あくまでも広告マンとしての戦略・知略を尽くすさまがとてもユニークで興味深い。
恐怖や不幸に打ち勝つものは、それによる悲しみや苦しみを訴えることではなく、それを一蹴する多幸感と未来だということを、この映画は雄弁に物語る。
勿論、現実はそう安直なものではない。
実際に圧政に苦しんだ人々の苦悩はそう簡単に振り払えるものではなく、すぐさま“未来志向”になれるわけではないだろう。
ただし、たとえそのCMを見ていた一時だけでも、打ちひしがれた心が和らいだなら、そこから未来は開ける。
「今、この国は未来志向だ」
主人公がプレゼンの前の常套句としているように、重要なのはこれから見るものが「未来」であると意識することだ。
「NO」という主張と選択。その価値と可能性を“真実”というエンターテイメント性で彩った快作。