48.《ネタバレ》 あまり期待せず見たのだが、なかなかどうして、見ごたえがあった。
この脚本・監督の西川さんという女性は、とても才能ある方だと思う。
この映画に説得力を持たせているのは、何よりも、稔と猛兄弟のそれぞれのキャラの描き方である。…非常にリアリティがある。「いるいる、こういう人」である。私はそこに、はっきりと「女性の視点」を感じた。
稔については、「キモい」を念頭に、女性から見て「どういう人がキモいか」を余すところ無く表現。そうそう、この髪型、その白い靴下、正座して洗濯物を畳む丸い背中、ぺこぺこ謝るその角度、どことなく女っぽいしゃべり方…キモい。
そして女たらしの猛。そうそう、この危ない感じ、ハンサムがわざと汚なづくりしている感じ、土足で女性の心にズカズカ入りこむこのずうずうしい感じ…いるよねー、こういう遊び人。女性の目から見て、「つい寝てしまう」ような男である。
しかし、これはオダギリジョーだからそう見えるのであって、そこらの男性が真似をすると容易に化けの皮がはがれて笑われる対象になるだけです。だから、真似してはいけない。
真木よう子とのラブシーンにも、すごくリアリティがありましたね。本当はそのつもりだったくせに、「私はそんなつもりじゃ…」とかいう顔をずっとしているところね。そのくせしっかり料理を食べさせてこっちのものにしようなんて、そうそう、こういう女っているよね。当然遊び人の猛はそんなこと読めてるから、食わずにヤリ逃げするわけだが。こういう女は女受けしないんだよな。
そしてまた、監督は智恵子を使って、非情なまでの女性の残酷さを描く。つまり、「好きな男」と「嫌いな男」に対するこの態度の違い、です。男性の皆さんは、身に詰まされて辛いかもしれない。
しかし、これが真実なんです。好きな男なら、避妊もしないで突然のHもOK、ヤリ逃げされても恨むどころか追いすがる、片や、嫌いな男には、指一本触られたくない。…本当に勝手なもんです、女って。
という、女性ならではの視点が、余すところ無く人物描写に生かされている。ある意味、男性にも女性にも勉強になる映画だ。
キモさを演じきった香川照之は、「地」という言葉すら浮かぶ。もし香川がどっちかというと「猛」的な男性だったとしたら、その演技力は大したものだ。
ラストの場面は、この兄弟の邂逅と見るべきと思う。希望を示して終わるラストは良い。