4.《ネタバレ》 非常に社会的なテーマを扱いつつも、描かれるのはこの状況に対する批判・非難とか「抵抗」だとか言うよりは、あくまでそんな壊れかけた世界の中に残された崇高な人間性、であった。ネガティブな様でポジティブな、極めて優れた人間ドラマ・人間讃歌だったと思う。
この題材を取り扱いつつ、そういった「批判的な」描写をあくまで脇に置いた演出方針というのは、もしかすると逆に幾分の本作に対する批判的な見方というのを呼ぶのかも知れない。また、本作に登場する人間というのはほぼほぼが善良でモラルのある市民であるが、実際には悪意のある人間とその影響というものが決して無視のできない環境であることは間違いないのだし、それをも選択的に排除していることについても、やや現実離れした作品だ、という評価すら可能なのかも知れない。
ただやはり、全編を通して描かれる彼ら「ノマド」の人生観に感じられる清々しさが、とにかく晴れやかな印象として心に残る。作中でも言及される様に、これはアメリカの伝統としてのフロンティア・スピリットの価値観に通じる部分を多分に含む、という意味で、かの国においてはもはや普遍的な価値観でもあるのだろう。それはあの比較的「若い」国そのものが持つ「強さ」なのかも知れない、とも思う。人を腐らせる「安定」に安住することを善しとせず、常に流転・変化し続ける中に人としての成長・向上を見出してゆく、あくまで前向きなモチベーションなのだ、と。
多くを語らないフランシス・マクドーマンドは、佇まいそのものでその「ノマド」の賞賛すべき価値観を体現していた。その意味では、ひとつ次元の違う演技の仕事だった様にも感じられる。脱帽である。