1.《ネタバレ》 "黒人"に対して何をイメージするか?
エディ・マーフィーやウーピー・ゴールドバーグを代表するひと昔前のコメディ俳優か、
はたまた『それでも夜は明ける』『ムーンライト』みたいな理不尽な差別に耐える健気な主人公か、
それとも貧困と銃とドラッグにまみれた屈強で粗暴なラッパーか。
ハリウッドから提供されたイメージはその一側面に過ぎない。
これらが白人だったら我々はどう見ていたのだろう?
それなりの知識層で中流階級の売れない作家兼教師である主人公も黒人だ。
大学の職を追われた彼は、長年疎遠だった実家の家族に向き合うことに。
父は不倫して自殺、母はアルツハイマー病で、母を介護していた姉は急死し、兄は同性愛者と問題だらけ。
生活苦からヤケになってステレオタイプな黒人を題材にした三文小説を偽名で書き始めるも、
あれよあれよの大ヒットで映画化決定、文学賞最有力と自分でもコントロール不能になって……
というコーエン兄弟的な筋書き。
黒人への配慮がむしろ白人の免罪符になり、エンタメとして消費されていく皮肉。
それに気付かず、白人は素晴らしいと崇め、黒人ですら面白いと問題の小説に疑問に感じない。
ただただ酔えるなら三種類のジョニーウォーカーの中から安物でも構わない。
今日のエンタメ及びポリコレ産業に横槍を入れており、真実を明かす場面を敢えてカットすることで、
観客が何を求めているかを問いかけているように感じた。
でも悲しいかな、自分の創りたいものは商業でほとんど通らないし、それがウケるとは限らない。
何も見ていなかった世間知らずな坊ちゃんである主人公が現実を突きつけられ、
悲劇のステレオタイプな黒人イメージと折り合いを付けていく。
そんなクリエイターの悲哀、日本の漫画の実写化でもよく聞く話だ。
あのラストを見ると、今までの展開はどこまでが本当なんだろうか。
白人と黒人の関係が密なアメリカだからこその笑いでそのニュアンスをどこまで理解しているかは怪しいが、
マイノリティのジレンマを案外スルスルと見れる話術と仕掛けですんなり見れた。
ダークホースで脚色賞を取れるかもしれない。