8.《ネタバレ》 「ブラッドシンプル」は、バーテンの黒人を除けば、主要メンバーは4人のみというシンプルな映画となっている。
構造としても、単なる不倫を巡るトラブルというシンプルなものとなっている。
しかし、シンプルなはずなのに、何もかもが複雑化しているという面白い映画だ。
主要メンバーの4人とも何が起こっているのかを全く理解していない点が面白い。
探偵は、ただ金が欲しかったという動機だろう。
そして、無くしたライターを不倫男に奪われたと思って、取り返そうとしているだけだ。
不倫された店主は、殺しを依頼したはずなのに逆に殺されようとしている。
しかも、目の前には銃を発射した探偵ではなく、憎い不倫男がいる。
ひょっとしたら探偵と不倫男がグルだったと思って、彼は死んでいったのかもしれない。
不倫男は、女が夫を殺したものと思い込み、全てを丸く治めようと奔走して疲弊し切っている。
すべて女のためにしたはずなのに、女はトボけて真相を話そうとしない。
やはり夫が語っていたように、利用されただけなのかと疑心暗鬼になっている。
女は、何が起きているのかさっぱり分からない。
不倫相手が夫を殺そうとしたと思っているが、逆に最後には夫が自分達を殺しに来たものだと思っている。
見事なまでの複雑さだ。
脚本の上手さを感じられる。
果てには3人が死んでしまい、この事件の真相を知るものは誰一人として残っていないのも面白い。
そして、注目すべきはやはりコーエン兄弟の演出としての手腕だ。
3発の銃弾によって緊張感が見事に高められている。
また、見事な撮影方法にも魅了される。
例の銃弾の跡のシーンだけではなく、光と影の使い方が実に上手い。
実体が見えない“影”に、見ている者も怯えるものとなっている。
さらに、足元からじっくりと映し出す独特の撮影方法もより緊張感を高める効果を発揮されている。
畑から走り出す車の美しさ、ラストに死にゆく探偵が見たもの、何もかもセンスの良さが感じられる作品となっている。